法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

特許取って海外旅行!?

今日は,研究をやっていておいしいことというか,特許取得について書きたいと思います。青色ダイオードの中村さんのようなとんでもない特許ではないのですが,以前勤務していた建設会社の技術研究所で特許を取得(私はお相伴に与った程度ですが)した時の話です。

今から30数年前,私が建設会社(技術研究所に勤務)に入社して2~3年の時でしたが,ちょうどコンクリートクライシスが世間を騒がせ,コンクリートの劣化が問題化し始めた時でした。そんな時,岩盤の研究室から物探関係の研究者が2名,コンクリート構造から1名,コンクリート材料から私が出て,コンクリート構造物の劣化調査法についての研究を行うことになりました。最初に,どこから手を付けたらよいかわからなかったので,既存の試験法である超音波や弾性波を利用してひび割れ深さや内部欠陥の試験法をレビューすることから始まりました。私は,超音波も弾性波も分からないまま,物探の研究者から模擬ひび割れを入れた供試体の作製を依頼されました。ひび割れ幅やひび割れ深さをいくつか変えて,供試体を作製したのですが,これがなかなか難しいものでした。模擬ひび割れを入れるために銅版や真鍮版を使って0.1mm~1mmまでの模擬ひび割れを入れようとしたのですが,ひび割れ幅の小さいものは供試体からなかなか外れず,グリスを塗ったり,トレース用紙を貼り付けたりしたものの,うまくいきませんでした。いろいろ試行錯誤して,完全に硬化してしまうと取れないので,凝結が始まってある程度コンクリート自体が塑性体となった時に外すことで,ようやく要求された供試体を作製することができました。

それを使って,毎日測定を繰り返していたのですが,ある時物探専門の研究者の方が,発振子と受振子をひび割れから等距離で離していって,ひび割れの深さを超えた距離になると,第一波の波形が反転することを見つけたのです。これはひび割れ幅にもひび割れ深さにもよらないことを確認しました。どうしてそのようになるのか,物理探査が専門の先生にその現象をお話したところ(私ではなく物探の専門の研究者の方),超音波における縦波(P波)は,ポアソン効果によって進行方向に対してポアソン比に応じて回折する圧縮波が生じ,ひび割れがある場合には超音波がひび割れ先端に達したところで回析する圧縮波がコンクリートの場合ちょうど45°方向(発振子から見て90°方向)に進行するということでした。つまり,発振子と受振子がひび割れ深さよりも短い距離にある場合,受振子には圧縮波ではなく引張波が受信されることから,第一波が下に凸の波形となり,ひび割れ深さを超えると回折した圧縮波が受信されることから上に凸の波形となるとのことでした。

超音波のことをほとんど何も知らなかった私でも何かすごいことを発見したのだという感触を他の研究者の方たちから感じ取ったのを今でもよく覚えています。この新しいひび割れ深さの測定法については,早速特許申請され,ありがたくも私の名前も発明者の一人として加えて頂きました。その後,特許が成立して,特許自体は自分たちで持っていてもどうにもならないので,調査機器メーカにロイヤリティ付きで譲渡することとなりました。最初のうちは,その当時超音波測定機器としてパンジットというスイス製の機器が使われており,国内でも1000台だったか普及しているという話を聞いており,それに取って代われば一人数百万の特許料がもらえると聞かされて,特許料が入ったら,皆でハワイに行ってゴルフしましょうと他の研究者の方たちと有頂天になって話をしていました。しかし,蓋を開けてみると,新しい超音波の機器はたいして売れませんでした。そんなはずはない,画期的な手法のはずなのだからと思っていたのですが,よく聞いてみると機器自体はリースする会社が所有し,そこからほとんど貸出しされていたのです。実は,特許譲渡の条件として売り上げに対してのロイヤリティしか付けていなかったので,リースでは一銭もこちらに入ってこなかったのです。糠喜びしていた自分に,世間はそんなに甘くないと痛感させられたのを覚えています。まあ,この手法はひび割れ深さの推定の精度向上には大きく貢献したと思ってはいますが,何とも口惜しい一件となりました(大したことはしていないのですが)。