法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

100年前の建造物

インフラの場合,設計耐用期間は100年に及ぶ場合があります。当然,その間には社会情勢の変化,国民の生活スタイル,要求性能などが大きく変化していきます。では,100年前の建造物(コンクリート構造物)がどれくらいあるのでしょうか。

100年前と言えば,明治から大正に年号がかわり,日露戦争終結し,世界の列強の一員となろうとして国を挙げて富国強兵に邁進していた時代から,大正モダンのような個人主義への時代へと移ろうとしていた時期です。国内だけ見れば一見比較的平和な時代でした。一方,世界に目を向けてみると,ヨーロッパを中心に第一次世界大戦終結し,その世界大戦の最中の1917年にはロシアで二月革命が勃発し,370年近く続いた帝政が崩壊した激動の時代だったのです。そして,今世界中を席巻している新型コロナウィルスのようなスペイン風邪が蔓延していた時代でもあります。科学の分野では,アインシュタイン一般相対性理論を完成させた時期でもあります。

ちなみに,100年前(1920年)頃に竣工(完成)した建物は,どれだけ現存していて,どれだけ現役でいるのでしょうか。今日は,そのいくつかを紹介したいと思います。

木構造物においては,山梨県南アルプス市(中巨摩)芦安にある大正5年(1916年)に竣工した練積コンクリート堰堤の芦安砂防堰堤が現存しています。広島県呉市には,粗石コンクリート重力式ダム(石バットレス)である本庄貯水池堰堤(堤高25.4m,堤体長97.0m)が現存しており,国の重要文化財に指定されています。

 

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芦安砂防堰堤山梨県南アルプス市(中巨摩))

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本庄貯水池堰堤(広島県呉市

岐阜県三重県の県境を走る三岐鉄道北勢線(楚原~麻生田間)には,1916年竣工のねじり橋(六把野井水拱橋)というコンクリートブロック製の鉄道橋があります。アーチ橋の桁下部にねじりが入った珍しい構造をしています。地元の大工であった多湖栄一が設計し,旧久米村坂井(現桑名市坂井)の郡竹治郎が施工を請け負って完成させたそうです。また,ねじり橋から約230m阿下喜寄りに位置するめがね橋(北勢鉄道線明智川穹窿橋)も1916年に竣工したコンクリートブロック製の3連アーチ橋(径間7.01mの3径間で橋長24.08m)です。こちらも多湖栄一が設計し,郡竹治郎が施工を請け負って完成させたそうで,こちらの2橋も現役です。土木学会誌の“モリナガ・ヨウの土木まくのうち”でも紹介記事がありますので,そちらも読んでみてください。

 

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六把野井水拱橋(三岐鉄道北勢線(楚原~麻生田間))

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北勢鉄道線明智川穹窿橋

建築物では,軍艦島の名称でよく知られている長崎県端島に,1916 年竣工の日本で最も古いRC(鉄筋コンクリート)造の集合住宅が現存しています(現存というか建ってるだけかもしれませんが)。三菱鉱業の職員や鉱員とその家族が住むために建設されたアパートで,今から40年以上前に使われなくなっています。この他,丸の内の旧東京銀行集会所(現東京銀行協会ビル),明治学院大学内にあるチャペル(礼拝堂)はW.M.ヴォーリズの設計により1916年に竣工しています。山口県庁舎,山口県議会議事堂及び山口県庁守衛所は,武田五一大熊喜邦の設計によって1916年に竣工しています。山口県内には明治から昭和初期にかけて,多くの建築物が現存しています。山口に行かれることがあったら,これらの建物群を見て回るのも面白いかもしれません。この他,1917年の竣工の永瀬狂三及び山本治兵衛設計による京都大学工学部土木工学教室本館があります。

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軍艦島

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京都大学工学部土木工学教室本館

では,これらの建造物が100年後の現代を予測して建てられたものかと言えば,まずそのようなことはないと思います。超高層建築,高速鉄道網や車を中心とした道路網,世界と瞬時に情報共有できる通信網など想像できなかったと思います。我々とてもこれから100年後の世界,100年後のインフラがどのようになっているのか全く想像がつきません。

その場合,設計耐用年数を100年と設定したらどうなってしまうのでしょうか。そのようなことを言っても目の前に管理していかねばならないコンクリート構造物があり,そのまま放置しておけば,100年も経たずに朽ちてしまうこととなってしまいます。また,地震津波のような自然災害に対しては,100年後の災害に対する予測技術は向上しているでしょうが,防災の観点から見たら,ほとんど変わってはいないでしょう。そうなると,構築したものの要求性能を低下させることなく保持させることはなかなか至難の業と言えます。

したがって,私たちが考えなければならないのは,建設時に求められる要求性能を供用期間内において低下させないように維持していくための手段を提示し,実行していくことだと思います。建設時における要求性能が変わり,その構造物自体の機能が陳腐化すれば,当然更新していかねばなりませんが,陳腐化するまでの期間は要求された初期性能を如何に維持するか考えていかねばならないと思います。今回紹介したような建造物を私たちも残していきたい(100年後の人たちに見せたい)と思います。