法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

打音検査は大変である!!

昨日は,目視検査の大きな目的であるひび割れの話を書きました。今日は,打音検査の話を少し書きたいと思います。

私たちが医者にかかる時,問診して(コンクリート構造物では事前の書類調査や前回の点検時のカルテの確認などに相当すると思っています),顔色や患部の状態を診た(目視観察)後に,触診や打診,聴診器による聴診を行いますが,これがたたき等の打音検査に相当すると思っています。実際に構造物に触れて音の変化から浮きや剥離等の変状を判断するのです。打音検査には,点検用(もしくは検査用)ハンマーといわれるものを用いて行われていますが,このハンマーにも各種あって,柄の長さやハンマーの大きさ,重さなどが異なっています。

あまり重いものは用いられませんが,昔コンクリートの劣化調査で一日打音検査を行っていたら,腕がパンパンに張れて,その日箸を持って食事することもその日の報告を書くこと(その当時は手書きでした)もままならなかったことがありました。上面を叩いているのはそれほどでもないのですが,トンネルのクラウン近くや桁の下面を叩くのは,意外と疲れるのです。最近では,多角形をした先端部を転がしながら,その時の打音を聞く機器がネクスコ東日本で開発され,テレビでも紹介されているようです。この機器ならば,疲れることなく,比較的広範囲で打音検査することが可能ではないでしょうか。

打音検査というのは,できるだけ同じ力(振り上げ高さを一定に,手首を使って一定のリズムでたたく)で叩いて,健全部の音と浮いている部分の音を聞き分けるのです。この聞き分けも慣れた人と慣れていない人では,浮きの範囲,特に境界部分が大きく異なってきます。また,少し深い位置での空洞や浮きの発見は,かなり熟練した技術者ではないと見分けられないのです。打音検査自体は,単純な検査法ですが,判定には高度な技術と経験が必要なのです。このような個人差を少なくするために,点検ハンマーの音をマイクロフォンなどで収録して,波形処理して,周波数や振幅の違いから浮きなどの欠陥部を検出する方法が提案されています。ハンマー自体の打撃力を一定とするための打音器もあります。これらを組み合わせて,熟練の技術者と同様に浮き,剥離を検出しようとするシステムも提案されていいます。

打音検査を定性的な検査法から定量的な検査法へと移行していくための試みもされていますが,限定された条件では可能なものの,実構造物ではコンクリート自体の性状や表面状態等が異なること,浮き自体も深さや浮いている高さなども一様でなく,それらを一律に判定することはなかなか難しいといえます。ここでも,人の聴覚(視覚からの情報を組み合わせてもいる)のセンサ能力の高さが窺われます。

実は,目視と打音を組み合わせた点検技術の開発を行っているところがあります。音カメラというもので,音源の位置や大きさ等を特定するとともに,同時に撮影されるデジタルカメラの画像上にそれらの音源が色や大きさで表示され,視覚的にわかるというものです。音カメラは,デジタルカメラと複数のマイクロフォンから構成され,発生した音が各マイクロフォンに達するまでの時間と音量から,位置と音源の大きさを特定し,それらの音源を画面上にビジュアルに表示するものです。もちろん,それらの音源の周波数特性や音圧レベルまで表示され,音源の特性自体も評価できることから,打音検査を実施している音を連続的に収録し,浮きの大きさや深さ等を評価することも可能ではないかと思われますが,現在どこまで研究開発が進んでいるかはわかりませんが,実用化されていろいろなところで用いられているという話はまだ聞いていません。

私たちの研究室でも,このブログの最初に松下君かぜ紹介してくれたように,機械学習を用いて打音検査による判定を行う研究を行っています。これからいろいろな研究成果が出てくるのが楽しみです。