海洋堂とガレージキット
海洋堂という名を初めて知ったのは，当時愛読していた模型の月刊誌での広告でした。大学2年（1980年）の頃で，戦車模型に夢中だった時期であり，“機動戦士ガンダム”が放映されていた時期で，こんなロボットのプラモデルが欲しいと思っていた頃でした。その頃，ガレージキットなる言葉が模型雑誌の中を飛び交っていました。既成のプラモデルではなく，自分の造りたい模型の原型をつくり，それを型取りして，少数販売する会社（ほとんど個人に近い）が模型雑誌に広告を載せていたのです。海洋堂はその中のひとつでした。その広告は，私の心臓を貫くくらいの衝撃的なものでした。
広告には，キングギドラの完成写真（ほかにもいくつか載っていたような気がします）が載っていて，１万円という価格が書かれていました。何が衝撃的であったかというと，キングギドラの完成度の高さとその価格でした。それまでの怪獣フィギュアのほとんどは，ソフトビニール製で愛くるしいぬいぐるみのようなフォルムで，とてもリアリティのあるものではなかったのです。海洋堂のそのキングギドラは映画から抜け出してきたような姿をしていて，これが本当に模型なのかと目を疑ったほどでした。また，その価格にも度肝を抜かされました。当時市販の1/35の戦車の模型が1000円～2000円くらいでしたので，その10倍近い値段ということになります。私は，その頃個人の家庭教師のバイトをしていて，確か月に1万円～2万円もらっていたので，１月のバイト代が飛んで行ってしまうと思ったのと，ほぼ個人で作っているので，その品質は誰も保証しているわけではなく，成形技術もその当時は未熟で，バリだらけでほとんどレジンの塊みたいなものでしたので，そんなものに1万円も出すのかというものでした。しかし，その広告の写真に目を奪われてしまい，どうしても欲しくて仕方ありませんでした。しかしながら，得体のしれないガレージキットに1万円だす勇気がなくて，そのままにしていました。
その後，兄が就職して尼崎に勤務となり，“初任給が出たので，何か欲しいものはあるか”と聞かれたので，申し訳なさげに“海洋堂という模型屋がだしているガレージキットのキングギドラ”が欲しいと言いました。海洋堂は大阪の門真市にある模型屋なので，尼崎からだったら近いですし，現物を見て駄目かどうか（とても１万円出すような代物ではない）判断してもらって，よさそうだったら買ってもらうようにしました。兄も私の模型好き，怪獣好きはよく知っているので，今度の休みに店まで行ってみるよと言ってくれました。
それから1週間ほどして兄から小包が送られてきました。中身はキングギドラでした。レジンの塊のようなガレージキットでしたが，鱗が一枚一枚繊細なモールドで施されていて，３つの首というか顔は映画で観たものと寸分変わらないような精悍な造形が施されていました。ずっとそれらのレジンの塊を見ていられました。見れば見るほどその造形の凄さに圧倒されました。本当に個人で作製されたものかと思うほどで，バリだらけで，型取り材が所々に着いていることなど気にならないほどでした。
お盆で兄が帰省した時に，キングギドラを送ってくれた御礼をいうと，“模型屋というよりもでかい倉庫のようなところで，何人かの若い人が，一生懸命シリコンゴムの型にレジン流し込んでいて，レジンの独特のニオイが充満していて，結構スゴイ匂いだったよ。それと，そこら中に不良品のレジンの塊が転がっていたよ。型流している人に聞いたら，なかなかシリコンゴムが外れないのと，何固か造ると型が壊れてしまうんだって。それとなかなか空気が抜けなくて，型に充填出来ないんだよねと言っていたよ。送ったのは，その中でも結構出来が良いやつを選んでもらったよ”と言っていました。
本当に手造り感満載のガレージキットだということが分かりました。この後，キングギドラの造形に感銘して，ゴジラなどのガレージキットを次々と購入していくことになるのですが，そのあたりのことはまた別の機会に書きたいと思います。
その当時のことを知りたいと思われる方は，“海洋堂創世記（樫原辰郎著，白水社刊，2014年）”という本が出版されているので，手に取って読んでいただければと思います。あの頃の模型少年（青年！？）たちの熱い想いがよく伝わる一冊です。大阪の一模型屋が後に世界で有名な造形メーカに飛躍していくのですが，そのあたりのことは海洋堂のセンム（社長なのですが，センムという風に呼ばれています）が書いた本（「好きなこと」だけで生きぬく力，wave出版社刊，2012年）があるので，そちらを読んでもらえればと思います。
海洋堂のセンムの話と海洋堂に関わる話は，また別の機会に書いていきたいと思います。
