法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

青山士氏について

 皆さんは,青山士(あおやまあきら)氏を御存知ですか。土木史もしくは水理関係の授業で名前を聞いたことがある人も少なくないと思います。青山士=パナマ運河という人も多いのではないでしょうか。海外で活躍した土木技術者としては,青山士氏を始め八田與一氏,久保田豊氏などがいらっしゃいます。以前,法政大学の技術者倫理の講義の兼任講師をお願いしていた高崎氏は,青山士氏,廣井勇氏など数多くの土木関係の本を執筆されている方で,青山氏に関する書籍として2冊出版されていて,青山氏についてとても造詣が深いことから,2008年6月に土木学会誌の取材で法政大学に講義で来られた時にインタビューをお願いしました(この頃は毎月のように土木学会誌の取材を行っていたと思います)。

 以下に,インタビューした時の抜粋を書きます。

 青山士氏について語る上では,パナマ運河建設の話をしないわけにはいきません。青山氏は,パナマ運河建設において灼熱地獄のような環境下で実に7年半にわたって工事に従事されています。最初は,末端の測量員であったのですが, 徐々にその仕事ぶりが評価され,工事に従事した7年半の間にガトゥン閘門の重要部分の設計や施工等を委ねられる技術者にまでなったそうです。最後には,アメリカの技術陣も驚くような素晴らしい業績を残し,アメリカ政府から「Excellent」という最高の評価を受けるまでになったそうです。現地のパナマ運河博物館に青山士のコーナーがあり,彼の業績が展示されているそうです。

 彼は,パナマ運河の完成を見ずに帰国しています。帰国後,彼は荒川放水路の整備に約15年間従事し,鬼怒川の河川改修にも従事されています。その当時,梅雨や台風のシーズンには軒下まで洪水がくるのが毎年当たり前だった東京の下町に対して,荒川放水路の整備によってほとんどなくなったのは,真に青山氏の大きな功績の一つといえます。青山氏は,技術官僚の最高ポストである内務技監になり,後に土木学会会長に就任しています。会長就任後,青山氏は土木技術者倫理について日本工学会において初めて明確に打ち出したそうです。青山氏は,その中で技術者が清廉潔白に生きていく姿勢や研究内容の情報公開などを訴えたそうで,土木技術者としての集大成がそこに明確に謳われているといえます。2008年当時,高崎氏は新たな青山士論の執筆を行っておられました(評伝 技師 青山士―その精神の軌跡 万象ニ天意ヲ覚ル者ハ…,2008年11月発刊,鹿島出版会)。

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評伝 技師 青山士の生涯

 高崎氏は,今日の土木技術者にも青山氏の精神を是非受け継いでほしいと願っているとのことでした。青山氏の精錬潔癖な逸話として,青山氏のところにある業者が付け届けを家人に渡したところ,青山氏が後から追いかけて行って業者に返し,どこの会社の人間かを問いただし,君のところは厳しい査定をせざるを得なくなることをその業者に述べたそうです。そのようなエピソードはたくさんあるそうです。

 高崎氏は,これまでにパナマに2回行かれているそうですが,その過酷な環境(まるで蒸し風呂に入っているようなところだったそうです)に7年半も仕事に従事して,さらに素晴らしい実績を残して帰ってきたということに感嘆したそうです。高崎氏は,そこに青山氏の一つひとつのことを諦めずに自分の仕事を完遂していくという強い意志を感じたそうです。青山氏のそのような意志は,土木技術者の重要な資質であると高崎氏は言われていました。

 新潟の大河津分水工事では,国の予算を大量に投入したにも拘らず激流で流されたとき,施工不良に対し激怒したそうです。国民の生命や財産を守るためにインフラを整備することは,土木技術者の義務と捉えていたそうです。青山氏は,シビルエンジニアとして人々のために土木技術を駆使するのは当然であるという思いを伝えたかったのだと思います。高崎氏は,大学での技術者倫理の授業の際に学生に青山氏のこれらの話をしているそうです。高崎氏は,授業で私たちの先達にこんな素晴らしい業績を残し良き規範となる人がいたということを話しているそうです。

 高崎氏は,土木技術者が技術論だけで満足していては国民に土木の役割や意義が伝わっていかないといわれました。素晴らしい橋や防波堤などのインフラ整備の裏にはそれらを構築した土木技術者がいて,こんなに頑張っているんだという姿を国民に理解してもらう必要があるともいわれました。青山士氏が日本とは地球の反対側にあるパナマという熱帯雨林の国において,運河博物館3階のフロアをすべて使って紹介されていることを日本ではほとんど知られていません。確かに土木技術者の謙虚さは素晴らしいと思います。しかしながら,それは世間の人々にその素晴らしさを認知されていないことにもなっているのです。

 学協会を含めた土木業界は,素晴らしい土木技術者をもっとマスコミなどに露出させる方法を検討すべきだと思います。インフラを支える技術者が,国内にもたくさんいるわけですから,私たち関係者は,マスメディアを利用してそれらを紹介していく努力をもっとすべきだと思います。

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技師 青山士