法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

外国での土木事情(2007年当時)

 土木学会誌での特集でもう一つやりたかったのは,海外における土木技術者の人気や社会的地位がどうなのかを調べることでした。しかしながら,私のような一介の大学教員が世界の土木技術者の事情を知る由もないので,編集委員会で大学などに留学している海外の方たちに自国の土木事情について聞いてもらいました。その結果,10名以上の方から回答が得られました。今から13年も前ですので,現在とは事情が大きく異なっているかもしれませんが,それぞれの国でいろいろ土木事情が異なっており,興味深い内容でした。

 

・タイからの留学生(3名の方から回答がありました)

「土木」という言葉は万人に理解されていないかもしれない。でも土木の果たす役割は広大かつ重要だ。タイが好景気に沸き土木への需要が多かった高校生の時、土木に関心を持った。1997年、経済危機の直後、競争率の低かった土木工学科に入学した。当時、土木工学者には仕事がなく、セールスマンやビジネスマンに転職する人も多かった。でもボクは、五感を駆使でき、かつ成果が目に見える形である点に魅力を感じ、土木を選んだ。将来はタイに戻り、学生時代に培った知識で耐震性のある基礎の建築に関わりたいと思う。タイ国民の生活水準を上げる仕事に就けるのは誇りである。

 

タイでは、土木エンジニアは伝統的に「ナイチャン(Nai-chang)」と呼ばれて歓迎され、都会化の象徴として尊敬され、学生が一番志望する職業である。経済危機のためにエンジニアの需要は急減したが、今後とも経済開発の重要な役割を担うであろう。

 

タイでは、エンジニアは「ウィドサワコン(Wid-sa-wa-kon)」、すなわち「神の手」と呼ばれており、20年前までは土木工学部は人気学部であった。1997年の経済危機以来、土木工学の役割が建設から、世界を持続可能なものにすることに変わった。

 

・イギリスの方からの回答

イギリスでは土木工学はあまり高く評価されず、新卒者の予想年収18,000~35,000ポンドに比べ、エンジニアは20,000~24,000ポンドと低いため、他の工学系学部より人気が低い。その反動と熟練労働者の退職によりエンジニアの深刻な不足が懸念される。

 

アメリカの方からの回答

 土木エンジニアの収入が他の工学系職種と比べ低いために、土木を志望する学生数は年々減少している。アメリカのインフラ設備が老朽化するのに、それに対処する知識を持つエンジニアが減ることは好ましくない影響を与えている。

 

・イランの方からの回答

 土木技術者は、あらゆる技術者の中で最も権威が高くエリート大学生が多い。給料は、12万円/月~120万円/月である。企業には属せずプロジェクトごとに転職するケースが多く、解析から工事監理まで幅広い知識が必要とされる。

 

ベトナムの方からの回答

ベトナムでは、最近土木工学専攻を選んだ学生はますます増えてくる。そのわけは、母国が発展できるために土木技術が不可欠なものと言われている。卒業後、就職率は他の専攻より高めに確信できる。もちろん公務員よりサラリーが良いですが、高収入といえない。

 

・エジプトの方からの回答

 エジプトでは土木工学は尊敬され、土木エンジニアの就職先の御三家は設計、建設、ソフトウェアで、一般の平均給与の1.5倍の収入が稼げる。通信情報技術(CIT)の進展が学生の興味をひいているが、CITの応用によって土木工学への興味を呼び覚ます必要がある。

 

スリランカの方からの回答

 スリランカでは2004年の津波後の開発プロジェクト増加と2005年の新大統領選出によって土木の役割が重要になり、土木エンジニアの給与が急上昇して平均を上回っているが、国内給与水準が低いためエンジニアの海外流出もあり、学生の人気もまだ十分ではない。

 

・中国の方からの回答

 地位と安定した収入のために土木工学は学生に人気があり、技術系大学の多くが学部を設けている。中国のインフラ建設への巨額の政府投資を背景に、大量の土木エンジニアが必要だが、短期訓練のために専門的レベルが低く現場での品質管理が困難であるが、将来改善される。

 

カンボジアの方からの回答

カンボジア工科大学が土木エンジニアを養成する唯一の公教育機関で、卒業生の供給人数は圧倒的に不足している(毎年5人程度)。大半は民間に就職し、月収250~600ドルと高給で、社会的評価が高く学生の目標になっている。

 

エチオピアの方からの回答

 エチオピアでは土木は理科系学生の志望上位3位に入る人気があるが、大学定員が業界の需要に追いつかないので受験競争が熾烈である。収入は政府職員では他の卒業学科と同レベルだが、民間では他の専門職の2-3倍の高給である。

 

 こうしてみていくと,経済成長している国では,インフラの整備などで土木の人気が高く,ある程度インフラの整備が進んだ国では,土木の人気が低い傾向にあるようです。土木の力が試されるのは,モノづくりよりも造ったものどう守っていくか(メンテナンス)なのですが,日本も含めてなかなかそうなっていないように思われます。そして,13年前からあまり変わっていないことに私は危機感を感じています。