法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

自己収縮ひずみ

 今日は,大学院講義である耐久性力学の第4回目を行いました。前回は,セメントの水和熱による温度ひび割れの話をし,今回は自己収縮及び乾燥収縮の話をしました。自己収縮の話の中で,受講者に明石海峡大橋での自己収縮絡みの話をしましたが,その時話し切れていない内容がありましたので,追記というか少し補足しておきたいと思います。講義を聴いていない方には,何の話かチンプンカンプンでしょうから,どんな話をしたかまずは概要を書くことにします。

 明石海峡大橋の海中基礎工事において,気中部のマスコンクリートの温度応力解析を本四公団から鹿島JVに依頼があり,技術研究所勤務だった私のところにJVから解析依頼がありました。当時は,今のような3次元での温度応力解析用ソフトと大容量計算ができるパソコンがなかったので,研究所にある大型コンピュータを用いて解析を行うことになりました。まだ,3次元解析のプログラムが導入されていなかったので,2次元での解析となるのですが,メッシュ作成やデータ入出力については,技術研究所に入っていた外部業者(コーディングなども行ってくれるソフト会社)に依頼して,解析を行ってもらいました。今見るとこんな簡単な2次元のモデル解析に何百万もかけて計算したのが信じられませんでしたが,ほとんど言い値で解析を行っていたと思います。1ケース大体百万円(今だったら,学生が1日で解析できてしまうくらいのもの)で,専任のスタッフ3~4人ついて行っていました。アウトプットも専用のプリンターでの出力で,コンタ図や温度,応力履歴も専用の用紙でしかも白黒でした。私の研究室に報告書が一冊残っていて,先日見返しましたが,こんなものでよくお金がもらえたものだと思うくらいでした。しかしながら,当時最先端の解析技術でのソースをプログラミングして行っていたので,1ケース百万円でも十分だったのかもしれません。解析結果からいうと,直径80m,高さ15mのマッシブな部材でありながら,超低発熱セメント(三成分系のセメント)を用いていることから,温度応力によるひび割れは生じないという結果でした。これを本四公団に説明に行って,了解されて施工が始まったのですが,暫くして現場から打込んだコンクリートにひび割れが生じたというので,急遽明石まで行きました。採取したコアを見るとひび割れ深さが3mくらいあり,アンカーフレームの端部からひび割れが延びていました。現場で職員の方から,日に日にひび割れが延びていると言われ,本当に温度ひび割れではないのかと問い詰められました。打込み時期,温度上昇量から考えても温度応力だけでこんなひび割れが生じるとは考えにくいと返答しました。公団でも問題となり,当時のN工事長が原因究明を指示し,確か土研にあった温度ひび割れ装置(TSTMとは異なっているのですが,フレームに温水を通して,見かけの温度上昇と温度降下を再現して,両端が固定されたコンクリートに膨張と収縮を与える装置,拘束度は変化できないですし,コントロールがかなり難しい装置です)や若材齢クリープ試験,引張試験等行った結果,想定している温度変化以上のひずみが生じているらしいことが分かりました。原因が分からないままだったのですが,当時広島大学のT教授が自己収縮によるひずみではないかといわれ,その後自己収縮に関する実験等を行い,温度応力に自己収縮ひずみが加わったことでひび割れが生じたのではないかということになりました。当時,私は自己収縮自体を全く知らず,どんな事象かもわからなかったのですが,その後委員会が立ち上がり,色々な研究成果が報告されるようになりました。今では,体積変化に伴う収縮現象としては乾燥収縮,自己収縮,温度変化に伴う膨張・収縮といわれるまでになりました。今から30年以上前の話です。