法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

土木の生い立ち

 今日は,ちょっと趣を変えて土木の生い立ちについて書きます。実は,先日執筆していた雑誌の原稿でボツになった部分を少しアレンジしたものです。

 人類が集団で移動しながらの狩猟生活を行い,その後徐々に定住するようになり,農業なども行うようになると,村を形成していくようになります。これらの過程で,土木(土木事業)が生まれていったと思います。例えば,狩猟に行くために道を切り開き,川や谷を渡るために丸太を倒して橋を架けたのは,まさに土木における道路や橋の建設と同じではないでしょうか。農耕が始まると,川から水を引くための水路を作り,外敵から自分たちや家畜などを守るための柵を設けることも土木の仕事といえます。国が形成されていくと,街と街を結ぶための道路や橋,トンネルなどが造られるようになっていきます。

 このように,土木事業(工事)は古くから行われていました。その例として,今から9000年以上前にイスラエルのイフタフにおいて,セメント系材料で造られた住居の基礎が遺跡で残っており,6000年以上前に石造りアーチ橋が造られ,約5000年前に石積みのダムが建設され,4000年以上前に川底を通るトンネルが掘られています。このように,土木は人類の文明の発展とともに進化していったといえます。また,世界四大文明やアジア,中南米などでみられる綿密な計画の元に建設された古代都市遺構などはその当時から高度な土木技術があったことの証明といえます。特に,これらの古代都市で巨石を扱ったものが数多く見られ,巨石の運搬やそれらを精度よく積み上げていく技術は,まさに土木技術の神髄と言えるのではないでしょうか。やがて,国の支配者たちは自らの権力の象徴として,巨大な墓の建設を行っていきます。古代エジプトのピラミッド,秦の始皇帝の地下の巨大墳墓,仁徳天皇陵を始めとする巨大古墳群などがその代表例といえます。

 土木の歴史自体は,このように非常に古いのですが,学問として体系づけられたのは比較的新しく,18世紀半ばのフランスにおいてルイ15世が設立した土木学校Ecole des Ponts et Chaussees(橋と道路の学校)が最初だといわれています。その後,1795年には工科大学Ecole Polytechniqueがフランスで開校されています。これらの学校では,軍事教育の一環として構造力学,材料力学,水理学(河川の流量や流速計算等)の基礎力学などが教えられたそうです。さらに,応用数学や応用力学なども学んでいたそうです。今の大学での土木工学の講義とほとんど変わらない内容と言えます。

イギリスでは,産業革命を契機として1750年頃からCivil Engineeringという言葉が用いられるようになり,それまで軍事工学としての土木工学から市民生活の基盤技術のひとつとして確立していきます。また,1828年には世界初となるイギリス土木学会が創設されています。その20年後にはイギリス機械工学会が設立されており,土木工学会は工学界で最も古い学会といえます。

 日本においては,当初イギリスやフランスの影響を大きく受けて,明治時代の東京帝国大学理学部工学科に最初にできたのは,土木工学科と機械工学科でした。また,日本独自の土木技術の発展を目指して,1914年(大正3年)に土木学会が設立されています。