法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

土木工学と軍事工学

 昨日も書きましたが,依頼された原稿でボツになった部分の抜粋を今日も書きます。土木の生い立ちにおいて避けては通れないものに土木工学と軍事工学との関わりがあります。土木工学(Civil Engineering)と軍事工学(Military Engineering)との関わりは、現代社会においては明確に区別されていますが 、近世までは土木・軍事の区別は特にされていませんでした。例えば、万里の長城匈奴などの北方民族の侵入を防ぐために、総延長6000km以上に及ぶ壁を構築したもので、明らかに軍事目的で造られたものですが、自らの国や自国の民や住居、財産を守るという観点でみると、堤防や防潮堤などの土木構造物と同じ目的で建設されたこととなり、両者を明確に区分できるかどうか難しいところと言えます。他にも、ローマ時代に建設されたアッピア街道は、建設の目的がいち早く軍隊を現場に急行させるためのものであり、軍事目的で建設されたものです。しかしながら、このアッピア街道を含めローマを中心とした道路ネットワークは、物流や人々の交流という商業・経済活動に活用されており、正に土木構造物といえるのです。その他にも軍港として造られたクラウディウス港も、軍船の利用だけでなく他国からの物資の受入れ場所として活用されており、ローマ市民のために利用されていたのです。また、日本における築城技術(普請)は、その後城下町の建設へと発展していき、都市計画の元にもなっています。

 こうしてみていくと、昔は特に区別することなく土木技術が軍事目的に使われていたといえます。土木工学と軍事工学が明確に区別されるようになったのは、18世紀におけるイギリスでしょう。ジョン・スミートン(初代イギリス土木学会会長)が、それまで区別されていなかったEngineeringに軍事目的でなく市民のためのEngineering という意味でCivilを付けたのが最初だといわれています。

 軍事目的なのか、平和利用なのかは、土木技術に限らずその技術をどのように利用していくかにあると思います。例えば、ノーベルが発明したダイナマイトは、巨岩を砕き、トンネルなどの掘削には欠かせないものであり、本人もそのような平和利用を目的に開発したのです。しかしながら、彼の意に反してその破壊力を利用して多くの武器が作られていったのです。原子力原子爆弾にも原子力発電にもなることをみれば、その利用目的によって平和利用にも軍事目的にもなるのです。平和主義者であったあの相対性理論で有名な理論物理学者のアインシュタインでさえ、1939年にアメリカのルーズベルト大統領に宛てた原子爆弾の開発を求める書簡に署名しているのです。これが後のマンハッタン計画に繋がることになります。アインシュタインは、ナチス・ドイツが核爆弾の開発を進めていると思い、アメリカにも開発を求めたとしています(後にこれは大きな過ちだったと本人自身後悔しています)。戦争の狂気は、人の判断をも狂わせるのである。土木に従事するものとして、土木技術は人々の幸福のために用いられることを常に心がけておく必要があるのです。

 それにしても,いろいろ調べて書いた原稿を,平気で赤の二重取り消し線入れる編集者の心境がわかりません。一言相談してくれれば,如何様にも修正できるのに,人の気持ちを逆なでするようなことを平気でするのですから,書いている方はたまったものではありません。まあ,私も学生の持ってくる卒論に大きくバッテンいれて書き直しと書くことがよくあります(とても読めた文章でないので,いい加減嫌になってついバッテンを入れてしまいます)。丁寧に修正箇所を示したいのですが,そうなるとほとんど原形をとどめなくなってしまうので,教育指導の立場からももう一度自分で考えてみなさいという意味のバッテンです。どれくらい私の気持ちを理解しているかはわかりませんが,今後も同じようにしていくと思います。