法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

低炭素社会から脱炭素社会へ

 昨日から,“CO2からコンクリート”という見出しで,大成建設からプレス発表があり,新聞各社に記事が掲載されました。内容としては,二酸化炭素(CO2)を原料とした炭酸カルシウムを使用するとしています。詳しい内容が書かれた技術資料が開示されていないのでよくわかりませんが,水酸化カルシウムか何かと二酸化炭素を結合させて炭酸カルシウムにしたものを粉体としてコンクリートに混合しているイメージかなと思っています。記事によれば,コンクリート1m3当たりで最大170kgのCO2を封じ込めることができるとしています。単位セメント量を300kg/m3とした場合,セメント製造時に発生する二酸化炭素量が約210kg(セメント1トン当たりの二酸化炭素排出量は約700kgといわれています)なので,脱炭素とまでいきませんが,約80%低減させることができることになります。高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどを用いた混合セメントであれば,例えば高炉セメントB種であればセメント製造由来以外で約40kg二酸化炭素を取り込むことができ,フライアッシュB種の場合でもセメント製造時の二酸化炭素に相当する量を取り込むことができる計算になります。まさに脱炭素といえます。コンクリート自体の性能としても石灰石微粉末を添加するのとほぼ同様でしょうから,特に問題ないと思います。二酸化炭素とカルシウムをどのような方法を用いて炭酸カルシウムを生成させたのかが気になるところではあります。しかしながら,コンクリートを用いている建設業界にとっては朗報の一つと言えるのではないでしょうか。

 他方,本日ACIのネットニュースにおいて,ミシガン大学の研究成果が報告されていました。ミシガン大学では,二酸化炭素をコンクリートに注入して有用な鉱物に変換することによって,CO2排出量を劇的に削減することができたと報告していて,コンクリートの特性として,靭性に長けていて曲げ変形が通常のコンクリートよりも大きくなるとしています。このコンクリートは,鹿島が開発したCO2-SUICOMという二酸化炭素を強制的にコンクリート中に吸収・反応させたもので,セメント製造時に出る二酸化炭素とほぼ同量を吸収させることができるとしていて,二酸化炭素排出量をほぼゼロにできるものとして,今から9年前にプレスリリースしたものに類似したものではと思っています。

 一般に,コンクリートの炭素排出量の約80%はセメント製造時によるものと言われています。これは,世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約8%を占めると言われていて,例えば,セメント産業を一つの国で例えるとすると,世界で3番目に大きな排出国に相当するそうです。また,その排出量は中国やアメリカとそれほど変わらないと言われています。実は,二酸化炭素をまき散らしているように思える飛行機の航空燃料(2.5%)よりも多くのCO2を排出していて,世界の農業事業(12%)に迫る量だとも言われています。以外と見過ごされやすいのですが,建設業界での低炭素,脱炭素は非常に重要な課題の一つと言えるのです。政府も今国会で地球温暖化対策推進法の改正案を提出する予定だそうです。その基本理念に「2050年までの脱炭素社会の実現」と具体的な年限を明記するとともに,同年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すとする政府目標の達成を掲げるそうです。低炭素社会ではなく,脱炭素社会に向けた検討が急務になってきているように思います。