法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

メンテナンスとは,何なのか?

今日は,メンテナンスのことについて書きたいと思います。

インフラが求める要求性能とは何なのか考え出すと意外と難しい問題です。

 メンテナンス(Maintenance)を辞書で調べてみると,“道路・建物・車・機械等の整備, 保存,管理,補修,保守,維持された状態,保持,持続,扶養,扶助料,生活費”などと出てくる。対象とするものが常に良い状態(性能や能力も含む)に保たれていることとは,例えば土木構造物の場合どんな状態なのでしょうか。“常に良い状態を保つ”という場合の良い状態とは一体どんな状態を指すのか素朴な疑問が涌いてきます。これはなかなか難しい問題と思いませんか。私たちがよく使う言葉に,要求性能だとか所要の性能というのがありますが,それがどのような状態で,どんな状態になったら,要求性能や所要の品質を満足しなくなるのか曖昧模糊としているのは確かです。

 例えば,テレビの要求性能なり所要の品質というのは,電源を入れれば瞬時に画面が鮮明に映り,雑音などのない音声が出ることであり,チャンネルや画面切り替えのリモコン操作が支障なくでき,画面上に番組表やデータ表示などができることだと思います。私が子供の頃は,まだ白黒テレビの時代で,スイッチ(当然テレビについている電源スイッチ)を入れて,画面が映るまでに10秒以上待ち,チャンネルの切り替えもうまくしないと画面が映らなくなるので,慎重に動かしていました。当然,リモコンなどという代物はなく,小学校高学年の時に近所の友達の家でリモコン操作を見て,感動したのを覚えています。そのリモコンも,何で反応していたかわからなかったのですが,友達が得意げに“十円玉何枚か掌の中で振ってジャラジャラさせるとチャンネルが変わるんだよ”と実演して見せてくれたのを鮮明に覚えています。これは,テレビの性能が良い状態でないといえるのかといえば否ということになると思います。

 子供のころにあった家のテレビはというと,画面に波が出たり,二重に移ったりすると,本体を叩いては映るようにしていました。画像が乱れるとテレビの調子が悪いのではなく,受信状態が悪いと思っていました。こんな調子でも,テレビは悪い状態もしくは修理をしなければならない状態とは思っていませんでした。今のテレビからすれば,もう廃棄寸前のような状態なのかもしれませんが,昔はそれが普通であり,当然電気屋さん(昔は,テレビを買ったところのお店の人が修理に来ていた)を呼んで修理を頼むようなことはありませんでした。叩こうが,チャンネルの角度(チャンネルを回すので,選局したところに合致しないと画面が映らない)を微妙にいじろうが全く映らなくなって,初めて電気屋さんに修理をお願いしていました。

 この状態でメンテナンスが行き届いていないかというと否ということになります。そのものの機能が満足していて,どうしても困った状態にならない限り,メンテナンスの必要がないと考えていたと思います。別に昔の人が辛抱強いというわけではなく,それがその製品の持つ要求品質だと思っていたのです。このように,同じテレビであってもその時代ごとに求められる性能が異なるのであって,昔のテレビは性能が低いかというと,そんなことはなく,私の家のテレビは十数年ちゃんと画面も映っていたし,音も出でいました。今のテレビはというか電化製品全般に感じていることですが,定期的に更新(買い替え)をしてもらうために,寿命設計というか耐用年数が短く設定されているような気がしています。以前のように電化製品が非常に高価であった時代であれば,購入した製品は修理してでもできるだけ長く使いたいと思うのは購入者の心情ではないでしょうか。今の人たちは,壊れたら修理するよりも新しく購入したほうが良いと思っているのが大多数なのでないでしょうか。もちろん,以前は高価であった製品が非常に安く購入できるのであるから,わざわざ修理してまで長く使おうと思わないのも当然なのかもしれません。まるで,洋服のように継ぎ当てまでして着ることはなく,どこか破れればすぐに捨ててしまうのとよく似ているような気がします。しかしながら,本当にこれでよいのでしょうか。

 ものを大切に長く使うという気持ちがなくなれば,我々が日常世話になっているインフラに対しても同じように,いろいろ手間をかけるより,悪くなったら作り替えればよいというようになってしまいます。インフは,我々の血税を使って造られた非常にコストのかかった構造物です。大事に使えば何十年,いや何百年も使えるはずなのに,何もしないでほっとかれてしまったために,数十年で使い物にならなくなってしまうのです。テレビは,映らなくなってしまっても人を殺すようなことはありませんが(リングのようにテレビの画面から貞子が出てきて呪い殺されない限り),インフラは,メンテナンスを怠れば,寿命が短くなるばかりでなく,崩壊して人の命を奪ってしまうこともあるのでです。

 今の時代は,消費に慣れてしまっていて,本当の意味で物の価値が分かっていないのかもしれません。資源の無駄をなくす,リサイクルを積極的に行うと口では言っても日々の生活がそうなっていないと思っています。もう一度,もったいないを考えるときなのかもしれません。