法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

穴太積みの神髄

 今日は,昨日の続きで粟田氏のインタビューの要約を書きたいと思います。

 “それから十年ほど経って,粟田氏が30歳を過ぎた頃,安土城天守台付近の石積みを任されたそうです。どの石を持っていこうかなと探していると,ある石が目に留まったそうです。「ほな,あの石ここ持ってこい」と言って運ばせて嵌めてみると,コンという音がしてピタッと嵌ったそうです。これが石の声というものかなとその時初めて気が付いたそうです。その後は,まず石に問いかけるような気持ちになってやってみると,積むスピードも変わり,無理をしなくても積んでいけるようになったそうです。その頃から粟田氏はようやく小さいながらも声が聞こえるようになったそうです。以来30年以上経過した今でも,万喜三氏の域には達しないと言われていました。

 穴太積では,「二番で持たせ」といわれるそうです。二番というのは石の先端ではなく5cmくらい入った奥であわせることを言います。本来なら全体的にきちんとあえばいいのですが,自然石の野面ではそうはいかないそうです。なぜそのような石積みが良いのかというと,先端で石を持たせた場合,地震などでずり落ちる可能性が大きいそうです。二番で持たせていれば,地震がきてもずれに対して余裕がとれるためだそうです。

 以前,兵庫県加西市一乗寺で石積みを行ってその年の暮れに坂本に戻り,一月に阪神淡路大震災がありました。あれだけの地震なので,絶対に崩壊していると思い,苦労してお寺にたどり着き,和尚にお会いしたら,「よう来てくれた。一度みてくれよ」と言われるのです。これはもう崩壊していると覚悟して積んだところにいったところ,全く崩れていなかったそうです。

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一条寺本堂

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一条寺本堂の石積み

 第二名神高速道路の甲南トンネルの実験で,穴太積みとコンクリートブロックによる擁壁を並べ,土圧をかけて擁壁の変位を測定する実験を行ったことがあるそうです。石垣の奥に栗石という小石を詰めているのですが,その栗石が荷重に対してショックアブソーバとなって,最終的に崩壊するには至りませんでした。実験が終わってから昔の人の知恵はたいしたものだと,改めて見直したそうです。その後,昨日書いた信楽インターに穴太積みの擁壁が採用されています。

 粟田氏は,国土交通省の砂防フロンティアの委員をされていて,石積みの堰堤の文化財保護の仕事をされていました(2007年当時)。最近は,建物と石積みを組み合わせると面白いということで,滋賀県では建物を造ったら,その裾周りを穴太積みで積むということをしているそうです。自然のものを使うということで,建物も見た感じ落ち着きがあることから,穴太積みの石垣が公共構造物へ適用されるケースが増えてきているそうです。

 石の声を聴いて,石の行きたいところに持っていくというのは,人にも言えるのかもしれません。よく適材適所と言いますが,穴太積みのように実現できると仕事がもっと楽しくなるかもしれません。