法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

自己充填コンクリート

 昨日のコンクリート技術の講義で高流動コンクリートについて話をしました。会社に入社して5年経った時だったと思います。当時東京大学の岡村甫教授が“ハイパフォーマンスコンクリート”と称した締固め不要コンクリートの公開実験を行いました。コンクリートは,締固めを行うものという概念を180°ひっくり返したものでした。私は,ちょうどその頃水中不分離性コンクリート(コンクリートを水中で施工してもほとんど濁らないで,気中で施工するコンクリートと同等の強度を発揮することができるコンクリートです。その当時は特殊水中コンクリートと呼んでいました)の研究・開発を行っており,明石海峡大橋の海中基礎に20万m3近くを施工するための現場実験や実規模実験を行っている時でした。水中コンクリートなので,締固め不要でセルフレベリング性を有するものでした。同じ水中コンクリートでも泥水中に普通コンクリートを打ち込む地中連続壁の場合には,スランプで21cmの軟練りコンクリートなのですが,セルフレベリング性が高いかというと,水中不分離性コンクリートほどではありません。水中コンクリートは,締固めは御法度なのですが,東北新幹線上野駅の工事で,急速施工のためなのか,合理化施工のためなのか,バイブレータによる締固めが行われ,締固め途中で鉄筋に引っかかってしまって地中連続壁の中には何本もバイブレータが埋め込まれているという噂を聞いたことがあります(何百年後かに解体した時に遺物が出てきたとニュースになるかもしれません)。

 岡村先生が締固め不要コンクリートの必要性を訴え始めたのが,1986年頃からだと聞いています。施工の良し悪しを決める大きな要因の一つに締固め作業があります。それを締固め不要にすれば,品質の安定化が図れます。また,1990年以降労働者人口,特に建設に関わる若い労働力が大幅に減少し,人手不足になることが予想されることから,省力化が大きな課題となっている時期でもありました。岡村先生は,元々コンクリート構造の先生ですが,限界状態設計法に関わられた際に,施工の重要性,特にコンクリートの品質(構造関連の技術者の場合,元来コンクリートは設計において圧縮領域だけに関係しているので,あまり品質に拘っていない傾向にあったように思います)の重要性を認識されて,それならばいっそ締固め不要のコンクリートを開発してしまおうとされたのではないかと思います。

 1991年から,建設会社15社,セメントメーカ及び混和剤メーカ各3社の計21名の若手技術者を東大に受託研究員として招き,東大の修士,博士とともにハイパフォーマンスコンクリートの体系づくりをされています。そのあたりのプロデュース力もすごいものです。3年間だったとも思いますが,ここから多くの技術者が博士号を取得しています。私が勤めていたK建設からは,一つ下のS君(今ではK建設の役員になっています)が東大に行っています。私は,水中不分離性コンクリートの開発や当時いろいろなプロジェクトが動き始めた高強度コンクリートの研究開発を行っていました。ハイパフォーマンスコンクリートは,後に自己充填コンクリートや高流動コンクリートという名称となり,現在に至っています。

自己充填コンクリートは,日本発のコンクリートで現在では欧米でも広く適用されており,自己充填コンクリートの試験法なども日本で開発されたものが用いられています。コンクリート技術に関しては,日本が世界をリードしているものが数多くあるので,これからももっと日本発のコンクリート技術を世界に見せつけてやりたいと思っています。