法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

傑作試験機と駄っ作試験機(その2)

 昨日は,自動凝結試験装置の話を書きました。今日は水中コンクリートが大水深下でどのように動く(流動する)のか調べるための試験装置について書きたいと思います。

 明石海峡大橋海中基礎工事が無事終わり,上部工の施工(主塔や吊りケーブルの施工,桁の施工など)が行われているとき,明石海峡大橋の次のしまなみ街道の検討の準備が始まっていました。また,その先の紀淡海峡大橋をどう施工していくかということが,海洋架橋調査会というところで検討が行われていました。どういうわけか私もそのメンバーに入れていただき,色々な課題について検討を行いました。紀淡海峡大橋は,和歌山と四国を結ぶ橋で,事業化された場合海中基礎の水深は100mを超えることになります。ちなみに明石海峡大橋の海中基礎の水深が60mなので,1.5倍以上の水深となります。当然大きな水圧がかかることになるので,その場合水中不分離性コンクリート流動性にどのような影響(流動性が大きく低下してしまわないかなど)が及ぶかわからないので,それを確かめる必要がありました。

 それならば,10気圧かけた状態で,フレッシュコンクリートの試験(スランプフロー試験)を行ってみればよいと思い,10気圧以上耐えられる水槽を製作しました。フローの確認は,水槽に透明な部分を設けて,そこからビデオ撮影して確認することとしました。ここで問題となったのは,コンクリートを詰めた状態で水を張って,水圧を掛けるまではよいのですが,スランプコーンを引き上げる方法と速度をどうしたらよいかということでした。引き上げ方法自体は,水槽内にスランプコーンの自動引き上げ装置を付ければよいということで解決したのですが,問題は引き上げ速度でした。最初に作製した際は,引き上げ速度が速すぎて,引き上げたコーンにコンクリートが付着して(水中不分離性コンクリートは非常に粘性が高いので引き上げた後もずっとコーンから水中落下していました),水槽内が濁ってしまったのです。ビデオでも当然確認できないくらいの状態でした。それならば速度を落とせばよいということで,非常にゆっくり引き上げるようにしたところ,今度はコーン自体が流動の邪魔をしてしまい,うまく流動してくれませんでした。その後は,引き上げ速度をいろいろ変えたりして,結局最初にある程度の高さ(10cmくらいだったと思います)まで引き上げた後引き上げを一旦止めて,コーンからのコンクリートの落下が収まってから引き上げを再開する方法で何とか濁りもなく流動性の測定を行うことができました。この段階で他の部署や発注者の方たちにお披露目をしました。評価は概ね良かったと記憶しています。この装置が大水深下でのスランプフロー試験の標準となれば,混和剤メーカやセメントメーカ,他の建設会社にも売れると思っていたのですが,その後紀淡海峡大橋自体の事業化が先送りされてしまい(私が生きている間にはまず事業化される見込みがなくなってしまいました),この装置もお披露目後は,使用することもなくお蔵入りしてしまいました。

 その後,私が大学に移ってから何年も経って,部下だったものから全く違う用途で活用させてもらっていますと言われました。1000万円近くかけて折角作製した装置でしたが,この装置も世界に一つだけの装置となってしまいました。いろいろアイデアが詰まった装置だったので,残念でなりません。まさに駄っ作試験機のひとつといえるのではないでしょうか。

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大水深下でのスランプフロー試験装置

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お披露目会での様子(まだこの頃は若かった!髪も真っ黒でフサフサ)