法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

傑作試験機と駄っ作試験機(その3)

鉄筋コンクリート構造物の耐久性について研究していると,なかなか厄介なのが鉄筋の腐食の状態の把握です。実験等で鉄筋の腐食状況を評価する場合,以前は腐食した鉄筋にトレース紙を巻いて,錆びてるところを鉛筆でなぞっていました。今は,簡単に画像処理できるので,腐食面積を出すのは楽ですが,昔はこの地道な作業を行っていたのです。それが終わると,重さを測定した後クエン酸に漬けて錆を全部落として(これがなかなか落ちなくて,金ブラシで軟らかくなった錆を一生懸命落としたものです),錆除去後の重さを測って腐食量の算定を行っていました。そういえば,研究所にいた時分塩害による鉄筋腐食抑制のために,ポリマー樹脂を鉄筋に吹き付けてその効果について検討する研究(石油会社との共同研究だったと思います)を上司から命じられ,まずは供試体作製をしろと言われ材料発注することとなりました。確か入社して2年目だったと思います。出入りの業者に鉄筋を発注したところ,届いた鉄筋は結構錆が浮いていて,上司から“お前はどんな実験を行うのかちゃんと考えているのか”と怒鳴られました。鉄筋腐食の実験をするのに錆びた鉄筋を使ってどうやって腐食したかどうかわかるのかといわれました。鉄筋などは,当然注文すればきれいなものが来ると思っていたので,業者に全くこちらの意図を伝えていなかった私が悪いのですが,何かとても口惜しい気がしてなりませんでした(上司が言うのももっともなのですが,一言錆びていないのをちゃんと頼めよと言ってくれたらと思った次第です。それは完全に私の甘えでした。ちゃんと実験の意図さえわかっていれば,当然自分から業者にそれを伝える必要があったのです)。注文した鉄筋は全部無駄になってしまいました(当然,業者が引き取るわけがありません)。これ以降,自分でどんな実験をするのか,どんな条件の材料を用意したらよいのか考えるようになりました。

 話が逸れてしまいました。腐食した鉄筋の腐食面積を人海戦術で測定するのは,時間と費用(実際の作業は協力会社に依頼)が相当にかかっていたので,これを自動化できたらどんなに良いかと思い,鉄筋腐食面積自動測定装置を考案することにしました。もう30年近く前なので,まだ画像技術などほとんどない時代でしたから,まずは錆びているかどうかどうやって判定するかが問題となりました。出入りの試験機製作メーカの営業に,色の識別を自動でできるようなカメラとソフトがあるか調べてもらうことにしました。いろいろあたってもらって,リンゴの出荷で,リンゴに傷がないかどうか判別する小型カメラと判別するソフトを見つけてきてくれました。RGBを色々変えていけば,錆の判定も可能であろうと考えました。次に錆をどうやってカメラに収めるのかを考えました。いろいろ考えて,カメラは鉄筋の長手方向のみ移動し,鉄筋を少しずつ回転させながら(ラップさせるのを60%くらいにしたと思います)撮影していくことにしました(これもリンゴを回転させながら画像を取る方法を真似ました)。

 プロトタイプが完成し,大量の腐食鉄筋の腐食面積の測定を行うことができました。これまでの人海戦術に比べて1/10くらいのスピードででき,かつ処理も自動で行うので,大変重宝したのを覚えています。ただし,しょっちゅう機械が止まってしまって,その都度業者を呼ばなくてはなりませんでした。さらに,画像認識のソフトを開発していた会社が倒産してしまい,さらに製作した会社もつぶれてしまいました(元々,小さな会社だったので仕方ないところはありますが)。そのため,ハードもソフトもメンテできなくなり,これもお蔵入りしてしまいました。その当時は,何処も腐食面積を出すのに往生していた時代でしたら,きっとヒット商品になるはずだったのですが,またも世界に一つだけの試験機(駄っ作試験機)となってしまったのです。

 ちなみに,今の研究室では3Dスキャナを使って,腐食面積だけでなく,腐食した鉄筋と錆を落とした鉄筋の両方を測定して,腐食量,腐食厚まで自動で求めることができるようになっています。スゴイ時代になったものです。

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3Dスキャナ

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鉄筋の腐食状況の測定