法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

スラグ90%セメント

 本州四国連絡橋明石海峡大橋海中基礎における特殊水中コンクリートの要求性能としては,スランプフロー52.5cm±2.5cm(当初は,50.0±5cmとするはずだったのですが,50cmを下回ると流動性が低下するので上側のみが採用されました),スランプフロー保持時間が8時間以上,凝結始発時間が30時間以内,断熱温度上昇量30℃以下,設計基準強度:180kgf/cm2(当時はまだ工学単位でした。SI単位で18N/mm2です)という針の穴を通すようなものでした。三成分系のセメント(基材となるセメントに高炉スラグ微粉末及びフライアッシュを混和したセメントで,基材となるセメントも中庸熱ポルトランドセメントを用いたりしていました)であれば,スランプフロー保持時間,強度及び断熱温度上昇量はクリアできるのですが,凝結始発時間をクリアすることは非常に厳しい状況にありました。あるセメント会社が基材に早強ポルトランドセメントを用いて高炉スラグ微粉末をC種相当にしたものを検討していて,スランプフロー保持時間が微妙でしたが,その他の条件はクリアするセメントを試作していました。これをヒントにして,基材は普通ポルトランドセメントにして,とりあえず高炉スラグ微粉末を40%~100%(100%については刺激材として無水石こうもしくは二水せっこうの水準を変えて加えました)変化させて,とりあえず強度特性を調べることにしました(高炉スラグを高添加すると,強度が低下することが既往の研究でわかっていたので,所定の強度を確保するために何%まで添加可能か確認するためです)。上司2人(Y氏とT氏)と一緒に行っていましたが,ある時T氏が興奮した様子で高炉スラグを90%まで添加したケースでも強度が無添加のものとほとんど変わらない結果となったと話してくれました。まさかそんなことはないでしょうというと,比較のために気中作製した供試体は無添加に比べて半分以下の強度しか出ていないと言われました。それでもなかなか信じられず,ケースを間違えていないかなど確認しましたが,間違っていませんでした。これは,特殊水中コンクリート特有の性質によるものと思われました。その性質とは,増粘剤によって保水性が非常に高いことから,コンクリート内部のゲル水などに溶け込んでいる水酸基が,水和が進んでも外部に溶出していかずに留まっていることから,長期間スラグの活性化が持続しているのではないかと推察しています。流石に95%まで添加するとセメント成分が少なすぎて強度は低下しましたが,90%までは強度低下がほとんど見られませんでした。さらに,断熱温度上昇量が20℃以下(結合材量は320kg/m3)となり,他の低発熱セメントに比べて10℃程度低い結果となりました。またフローの保持時間も8時間以上となりました。唯一凝結始発時間だけは,スラグ微粉末の比表面積を大きくしたり,せっこうを添加したりしましたが40時間程度までしか達成できませんでした。しかしながら,その特異な性質(強度を確保しながら発熱量を大幅に低下することができること)を公団側が高く評価してくれて,東播で行った実規模実験まで候補として残りました(三成分系とスラグ90%の2種類が最後まで残ったのです)。性能としては,三成分系を大きく上回っていましたが,実績が皆無なので世紀の大プロジェクトに適用することは難しいと判断され,最終的には海中基礎のセメントに三成分系が選ばれました。最終選考まで残っただけでもすごいことですが,できれば明石海峡大橋というビッグプロジェクトに使用してもらいたかったといまでも思っています。費用も三成分よりも確か安かったので,技術や性能だけでは決まらないことを思い知らされました。