法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

沖ノ鳥島

 スラグ90%セメントは,明石海峡大橋の海中基礎に採用されませんでしたが,超低発熱特殊水中コンクリート用セメントとしてある程度認知されるようになりました。そんな時,建設省関東地方整備局からスラグ90%セメントについて技術資料を送ってもらいたいという連絡がありました。1985年に今後特殊水中コンクリート明石海峡大橋海中基礎や関西空港の連絡橋などで大量に施工されることが予定されていることから,特殊水中コンクリートの施工マニュアルの整備が発注者側や施工者側から求められるようになり,運輸省(現在の国交省)の所管の財団法人である沿岸開発センターが主幹となってマニュアル作成が行われました。作成委員は,上司のMさんが参加されていましたが,何回か一緒に委員会に出席したことがあります。マニュアル自体は,関西空港及び明石海峡大橋の施工が始まる前に刊行する必要があったので,1986年の12月に発刊されたと思います。この委員会に建設省の方も参加されていて,明石海峡大橋の実規模実験なども見学されたと思います。

 建設省がどんなところに使用するのかも分からず(上司は既に知っていたようです),とりあえず資料の作成を行いました。上司は,それを持って建設省に説明に行きました。実は,この時沖ノ鳥島の護岸工事に使用する話があって,熱帯地域の海中での施工なので,ひび割れなどを極力抑えたいために,スラグ90%セメントに白羽の矢が立ったようです。僅かながらですがセメントの開発に関わったものとしては,凄く嬉しかったのを覚えています。明石海峡大橋での不採択の時は,正直かなり落胆していたのですが,捨てる神あれば拾う神ありといったところでしょうか。早速,沖ノ鳥島に向けた配合試験を行うことになりました。

 沖ノ鳥島は,太平洋のフィリピン海上にある島で,日本最南端の島です。面白いというかそれまで知らなかったのですが,この島は小笠原諸島に属していて,住所は東京都の小笠原村なのだそうです(フィリッピンのすぐ近くにもかかわらずです)。沖ノ鳥島の周囲だけ隆起していて,サンゴ礁からできていているのですが,その先は水深500m以上の深さです。そこに,大小2つの岩が露頭しているのですが,かなり洗堀されていて,倒壊の危険性がありました。島と認められるためには,自然物(この場合は岩)が海上に露出している必要があり,倒壊してしまった場合,日本の領土でなくなり,排他的経済水域が失われてしまうのだそうです。その倒壊を防ぐために,護岸工事が行われることになり,巨大なテトラポットを周囲に設置し,岩の周りにコンクリートを打ち込むことになりました(岩に直接コンクリートが接しては駄目とのことでした)。そのコンクリートにスラグ90%セメントが選ばれたのです。建設省関東地方整備局の京浜河川事務所(横浜かどこかだったと思います)に行って,どのような仕様なのか話を聞きました。材料は全て東京から運び,プラント船で製造して,ポンプで圧送(打込み場所周辺は水深が浅く,プラント船が行けないので,配管しての施工になるとのことでした)して打ち込むとのことで,気温も高いが海水温度も高いので,練上り温度が35℃超える可能性が高いとのことでした(確か,海水を淡水化して練り混ぜ水にしたと思います)。とりあえず高温での練混ぜをする必要があり,確かTo建設の技術研究所(これも横浜の方だったと思います)で(施工自体はTo建設が行うので),試験練りを行ったと思います。ここで大変なことが起こりました。それについては,次回書きます。