法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

アルカリシリカ反応はかならず起こる!?

今日は,昨日に引き続き,アルカリシリカ反応に関する研究について書きます。これは,ある意味大いなる失敗談の一つです。研究というのは,やれば必ず答えが出るわけではなく,ほとんどの場合,失敗に終わってしまいます。これもその一つといえます。

モルタル実験の後,アルカリシリカ反応が進行した場合,コンクリート構造物にどのような影響を与えるのかを研究するために,構造グループ(私が所属していたのは材料・施工グループ)と共同で構造実験を行うこととなりました。大型の梁などを製作する必要があり,かつ必ずアルカリシリカ反応を生じさせる必要があったことから,当初はガラスをコンクリート用骨材として用いることにしました。何故ガラスを用いたかというと,ガラスはケイ素塩を主成分としており,アルカリシリカ反応を引き起こす反応性物質でできているためです。ただし,ここで問題となったのはコンクリートに用いる骨材には,粒度の大きさとその分布(粒度分布といいます)の規定があるので,それに従う必要がありました。そのため,くずガラスを大量に購入し,来る日も来る日もガラスを砕いてコンクリート用骨材を作る毎日でした。今なら,ガラスの粉による塵肺となるような過酷な作業でもありました。

苦労して作ったガラスの骨材を使って,コンクリートの供試体を作製し,アルカリシリカ反応によるものと思われるひび割れが生じているのを確認できた時は飛び上がって喜びました。しかしながら,ひび割れ発生確認後,いろいろな力学的な試験を行ったのですが,それまでいわれているようなアルカリシリカ反応を生じたコンクリートと同様の結果が得られませんでした。これは,ガラスを用いたためにひび割れ自体はアルカリシリカ反応と同様なものが生じたのですが,生成されたシリカゲルが骨材と周囲のペーストの付着を改善してしまい,変形特性であるヤング係数は小さくなるものの,圧縮強度はむしろ大きくなり,実際のアルカリシリカ反応と同様の挙動を示さなかったのです。つまり,大量に作製したガラス骨材が無駄になってしまったのです。それでも,研究を進めなければなりません。

そこで,あらためてこれまでにアルカリシリカ反応を起こしている骨材と同様の岩種を用いて,供試体の作製と力学特性試験を行いました。大型のはり等を製作する必要があり,大量のコンクリートを製造しなければならなかったのですが,研究所にはそのような設備もなく,レデーミクストコンクリート工場(いわゆる生コン工場)にわけあり骨材を持ち込んで練混ぜしてもらうわけにもいかず,やむなくトラックアジテータ車(いわゆる生コン車)を借り受けて,コンクリート製造を行いました。断っておきますが,国内にはコンクリートを製造できるトラックミキサー車はほとんどなく,借り受けたものは,コンクリートを運搬するためのトラックアジテータ車であって,十分な練混ぜができなかったのですが,この方法しか思いつかず,やむを得ず行ったのです。決してトラックアジテータ車でコンクリートが製造できるとは思わないでください。

このように苦労の末に作製したコンクリート梁を今度も40℃の恒温室に大きな梁を入れるだけでも大変であったものの,無理やり押し込んで後はアルカリシリカ反応が生じるのを待つばかりとなりました。しかしながら,半年経っても1年経ってもアルカリシリカ反応が生じる気配もなく,結局5年間恒温室においておいたのですが,反応が生じないまま処分することになりました。もちろん,事前に小さな供試体レベルでの確認試験を行っており,その際はアルカリシリカ反応が生じていました。大いなる失敗というか無駄な実験といえますが,教訓となったのは成立条件さえ満たせばアルカリシリカ反応が必ず起こるとは限らないということ,自然の材料相手に行う以上は,こちらの思惑通りにはことは進まないということを痛感した実験でした。実際にアルカリシリカ反応を起こしている構造物でも,同じ場所の隣り合わせの擁壁で,一方はアルカリシリカ反応を起こしていて,一方は全く起こしていない事例も報告されています。

劣化現象を起こしたい(再現したい)時には起こらず,実構造物で生じさせないようにいろいろ対策を講じても生じてしまうことがあります。実験や研究は,うまくいかなかった時その瞬間すごくへこみますが,次の瞬間には,次にどうやったらうまくいくか考えている自分がいます。会社務めはつらいか楽しいかと問われれば,つらいこともたくさんあるけれど,うまくいったとき,人から感謝されたときに,つらいことは一気に吹き飛んでしまうので,楽しいときっと答えると思います。私は,多くの失敗から一つの成功を導き出していくことを研究所で勤務しながら学んだように思います。一種の達成感なのかもしれません。これを学生たちに是非伝えたいと思っています。