法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

論文博士

 一昨日の教授会内で,私の研究室で論文指導したM氏の審査請求論文に対する論文審査委員会が開催されました。論文審査委員会の委員長は,研究科長が通例なることから,自分が指導した学生の審査請求論文について自分で説明して教授会のメンバーに審査結果に対する審議をしてもらうというなかなかややこしいものでした。今回の論文審査委員会では,課程博士が1名,論文博士が2名の計3名の審査を行いました。M氏については,公聴会(2月14日のブログ)で簡単ですが,説明しているので,ここでは彼の審査請求論文の内容を簡単に説明したいと思います。

 論文のタイトルは,「コンクリートのひび割れ制御材料の効果定量化とその評価法に関する研究」というものです。論文の概要としては,収縮ひび割れを制御するための材料面からの対策とその制御効果について,現状での定性的・経験的評価ではなく,それらの的確な材料選定を行うとともに,それらに対して定量的にひび割れ抑制効果が確認できる材料設計を行うことを目的としたものです。具体的な研究内容としては,膨張材,収縮低減剤及び低発熱・低収縮型セメントを用いた各種コンクリートの材料特性モデル及び評価方法を構築・提案するとともに,その実効性の検証を行ったというものです。さらに,熱帯環境下でのマスコンクリートに対するフライアッシュセメントの適用性ならびに有効性について,温度ひび割れ及びDEFひび割れに対する抑制効果の観点から検討を行っています。

 研究の結果から,収縮低減剤及び膨張材に関してはひび割れの分散性を評価することができる独自の一軸拘束ひび割れ試験を考案し,その実験結果及び解析結果から膨張材に関して定量的に評価できることを示しています。さらに,膨張材や収縮低減剤を用いたコンクリートについて,種々の相対湿度下における乾燥収縮ひずみを測定し,それらの影響について検討し,収縮低減剤・膨張材を用いたコンクリートと普通コンクリートでほぼ同等であることを示しています。また,膨張コンクリートマスコンクリートに適用した場合の温度ひび割れ制御効果を定量化するための材料特性モデル及び応力評価法について,線膨張係数が極めて小さいインバー鋼材を用いた独自の一軸拘束試験を種々の温度条件下で実施し,温度依存性を考慮した材料特性モデルを構築するとともに,膨張コンクリートの応力評価法を提案しています。さらに,マスコンクリート内部を想定した温度履歴下での適用性について検証を行い,その妥当性を示しています。他方,セメント・混和材・骨材の種類など使用環境などの条件が従来と異なり,知見・データの蓄積が少ないコンクリートの温度ひび割れリスク・抑制効果について,実験・解析の両面から精度良く予測できることを示しています。

 今回審査請求された論文は,彼の10年以上にわたる研究成果が凝縮された内容といえます。論文審査委員会では,異議なく本審査請求論文に対して博士の学位に値すると評価されました。論文博士は,課程博士に比べてハードルが高いのですが,学位取得は彼の地道な努力の賜物だと思っています。今回の博士取得は,M氏が研究者としてようやくスタートラインに立ったとも言えます。これからさらに自らの研究内容を深めていかねばなりません。彼は,現在シンガポールにいるので,一緒に祝杯を挙げることはできませんが,このコロナ禍が収まって無事帰国した時は,お祝いの会を是非催したいと思っています。