法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

論文査読と添削

 例年,年末年始は学部生から提出された卒業論文のドラフトのチェック,大学院生や委員会などで自分が共著となっている日本コンクリート工学会年次論文集の原稿のチェックなどがあり,ここ2週間くらいはずっと論文を読んで,添削する日々が続いています。会社に勤めていた頃や大学に移って間もなくの頃は,自分で日本コンクリート工学会年次論文集の原稿執筆(多い時で一度に3編くらい書いたこともありました)をしていたのですが,いつの間にか添削する側になってしまいました。それでも,ここ数年は何とか年次論文集だけでなく他の論文集への執筆なども細々ですがしています。最近は,学会への論文投稿よりも学会誌などへの原稿執筆の依頼が多く,年に数編書いています。昨年の後半は,ヨーロッパの学会から論文投稿の依頼(実際は国内の他大学の先生が編集委員になっていて,その方からの依頼でした)があり,12ページほどの英語論文を執筆しました。内容は,日本におけるマスコンクリートのひび割れ制御技術の現状と課題についてです。あまり知られていませんが,日本のマスコンクリートの温度ひび割れ制御技術は現在世界トップクラスで,欧米の研究者からも一目置かれています。世界トップクラスまでいったのは,まさに先達たちの血と汗と涙(はないかもしれませんが)の結晶の賜と思っています。今から50年ほど前までは,欧米,特にアメリカが温度ひび割れに関して世界をリードしていたといえます。戦前のフーバーダム建設では,コンピュータもない時代に温度ひび割れ制御の膨大な数値計算をすでに行っています。戦後においても多くの制御技術や数値シミュレーション方法についての提案を行ってきました。日本は,それらの技術の取得に必死な状態でした。転機は,戦後の高度経済成長期でのインフラ整備において,多くのマスコンクリート構造物の建設があったことです。これらのビッグプロジェクトにおいて,いつも技術者たちの頭を悩ませていたのが,温度ひび割れ問題でした。橋梁基礎や原子力発電施設など鉄筋コンクリート構造部材にマスコンクリートを適用することから,ダムのように骨材寸法を大きくし,スランプを施工できる範囲で小さくして,単位セメント量を極端に少なくするようなことはできません。そのため,その他の方法として低発熱セメントの開発や新しいプレクーリング,ポストクーリング方法の開発,温度応力によるひび割れ制御のための解析手法の開発などが行われました。研究分野だけでなく,実務としても適用可能な技術の開発がその当時行われ,多くの成果を生み出しました。それらの成果が土木学会のコンクリート標準示方書や日本コンクリート工学会のひび割れ制御指針で体系的にとりまとめられたのです。それらは,世界に類を見ないものとなり,世界トップクラスの制御技術が確立していったのです。こうした制御技術の歴史というか変遷を論文でとりまとめました。東南アジアなどでは,今でも欧米のひび割れ制御規準を運用しています。もっと素晴らしい制御技術があること(予測解析の技術も含めて)を彼らに知ってもらうためと思い書きました。

 学部生の卒業研究もそれらの制御技術の発展の一翼を担っているという意識で書いてもらいたいのですが,当然彼らはそのようなことを知る由もなく,難解な文章(稚拙な文章と書くと怒られそうなのですが,もう少し日本語勉強してもらいたいと思います)を毎日読まなければならない身にもなって欲しいと思います。大体,1月半ばくらいになると私自身が読むのに疲れてきます。次に,私に提出する時はのど越しすっきりするような文章というか内容にしてもらいたいと切に願っています。