法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

ひび割れ制御技術について

 昨日,海外の学会への論文執筆について書きましたが,温度応力に起因する温度ひび割れの制御技術についてあまり詳しく書きませんでしたので,今日はそれについて少し書きたいと思います。この内容自体は,コンクリート技術という講義でも少し話をしています。

 コンクリートのひび割れは,いわばコンクリートの宿命ともいうべきもので,水とセメントの化学反応(水和反応)時の発熱は硬化体の生成に欠かせないものです。また,セメントの水和反応に使用する水はコンクリートに加える水の45%程度で,残りの半分以上は施工性能を確保するためのものです。いわば,練混ぜをして型枠にコンクリートを打ち込んでしまえば必要ない分といえます。そうはいっても,セメントの水和反応に必要な水が未水和のセメントの周りに何時もちゃんとあるかというとそうでもないのです。この辺りが厄介なところで,理論上水和反応に必要な水だけにして,残りを例えば高性能AE減水剤に置き換えてしまえば,一見合理的なようにみえますが,水セメント比が20数%の高強度域のコンクリートでは,非常に粘性が高くなることや,水和反応したいのにその周囲に水がなくて,未水和のまま残ってしまうセメントも出てきてしまいます。ただし,水を減らすことはコンクリート硬化後の有害物質や劣化要因となるイオンなどをコンクリート内部に拡散させていく媒体を低減させることになりますし,何より乾燥収縮によるひび割れの抑制に効果があります。水を減らすことは,強度に必要なセメントを減らすことにもなり,ひび割れ発生の低減にも繋がります。よく言われることですが,コンクリートからひび割れを全くなくすことは現在使用している材料ではできないので,有害なひび割れをなくす努力をすることが大事なのです。また,ひび割れを制御することはある程度可能なのですが,完全にコントロールすることは非常に難しいので,ひび割れを制御ではなく,抑制すること(例えば,ひび割れ発生はある程度許容し,ひび割れ幅を耐久性や水密性に極力影響を及ぼさないように制御すること)を念頭に置いた対処方法が採られることが多いのです。このあたりの制御技術は,日本が得意とするところでもあります。もちろん,ひび割れを生じさせないために,丁寧な施工を行うことは言うまでもありません。ただし,これまではこの丁寧な施工というものがなされていない場合が多かったのです。とりあえず,きたコンクリートを型枠内に打ち込んで適当にバイブレータをかけて,初期養生もいい加減に行い,型枠をすぐに外してしまうような施工が結構行われていました。これでは,いくらひび割れ制御を行おうとしても,それ以前の段階でひび割れが生じてしまうことになります。コンクリートは,生モノで丁寧に扱わないとすぐに壊れてしまうものだと思って施工してもらえると,それだけでもひび割れはかなり減ることになるのです。制御対策に多くの費用を費やす前に,施工を丁寧に行うことが実はひび割れ抑制の早道と言えます。

 どんなものでもそうだと思いますが,愛情を持って接すれば必ず応えてくれます。いい加減に扱えば,いい加減なものにしかならないと思います。どんなことに対しても真摯に向き合う姿勢が大事だと思います。愚直なくらいがちょうどよいくらいではないかと思っています。これは,人の教育でも言えるのではないかと思っています。