法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

ひび割れ制御技術の変遷(その1)

 昨日書いたように,現在論文の作成をしているのですが,その中でひび割れ制御技術の変遷を簡単にまとめましたので,今日はそれを紹介したいと思います。

1960年以降の高度経済成長期に,長大橋梁,原子力発電所,地下タンク等数多くのマスコンクリート構造物が建設されました。これらのマスコンクリート構造物の建設において,セメントの水和発熱によるひび割れが大きな問題となったのです。この問題に対して,研究者たちは実験と解析の両面からの学術的な検討を行うとともに,現場の測定結果に基づいた実務的なひび割れ発生の予測式をいくつか提案しています。これらの予測式は,発熱に伴って部材の内外温度差によって生じる内部拘束のみならず,拘束体と被拘束体との温度差及び剛性の違いによって生じる外部拘束についても考慮したものでした。

 一方,ダムなど巨大構造物の建設を戦前から行い,日本よりもマスコンクリート構造物のひび割れ制御技術が進んでいたアメリカにおいて,1973年にACI(American Concrete Institute)207委員会より「マスコンクリートのひび割れに対する拘束,体積変化及び鉄筋の影響」という報告書が出されました。この報告書では,内外拘束の影響も含めた温度ひび割れ制御に関する実務的な設計概念及び定量的な計算手法が提案されていました。実は,国内でのひび割れ制御の研究成果を用いることなく,1980年代までこのACIの提案式が広く用いられていました。この背景には,1974年に刊行されたと木学会コンクリート標準示方書施工編において,初めてマスコンクリートの章が確立されたものの,温度ひび割れに関する具体的な方策は記されていなかったためではないかと思われます。また,この示方書でのひび割れ制御に関しては,既存のダムコンクリートの温度ひび割れ制御対策を参考することが示されているのみでした。長大橋梁基礎のようなマスコンクリート構造物の場合,ダムコンクリートとは配合,施工法など多くの点で異なりますので,ダムコンクリートの温度ひび割れ制御対策は,対象とするマスコンクリート構造物に対して十分対応できない状況にあったことも理由のひとつではないかと思っています。

 そんな中,1981年に日本コンクリート工学協会(現在の日本コンクリート工学会)でマスコンクリートの温度応力研究委員会が立ち上げられ,1986年3月に「マスコンクリートのひび割れ制御指針」が発刊されました。この指針では,マスコンクリート構造物の温度ひび割れ制御計画,温度応力,ひび割れ幅の解析手法,管理手法などの基本的な考えがまとめられたものでした。解析においては,熱物性,力学的特性,内部及び外部のそれぞれの拘束条件に応じて,水和熱による温度上昇,それに伴う温度応力を,4次元的(3次元空間+時間)に捉えた先駆的な研究成果などが解説されていました。この指針で示された解析手法は, ACIの手法とは一線を画すものでした。特に,岩盤や地盤,既設のコンクリート基礎にコンクリート躯体を施工するときの内外拘束による応力推定については, Compensation Plane(CP)法という新たな概念が紹介されています。このCP法によって,同じ断面が連続する壁状構造物のようなものについては,計算時間のかかる3次元解析を行おこなわなくても2次元解析で精度良く温度応力解析が行えるようになりました。

 この続きは次回紹介したいと思います。