法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

傑作試験機と駄っ作試験機(その5)

これまでに世界に一つだけの試験機を両手で足りないくらい世に送り出してきていますが,今日ご紹介するTSTM(Thermal Stress Testing Machine;温度応力シミュレーション装置)は,傑作試験機と思っています。この装置のアイデアは,ダムの現場にいた時に温度ひび割れの発生を解析だけでなく,材料・配合でできないものかと思い,以下のような簡単なポンチ絵を作成しました(手書きで書いているところが時代を感じさせます)。ちょうど技術研究所の次年度の機器購入の申請があることを元部下から聞いて,急いで装置(一応システム)とシステムフローを作成して研究所の方に送りました。

 

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温度応力シミュレーション装置のアイデア

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温度応力シミュレーション装置のシステムフロー

それでも時期が少し遅かったので,次々年度以降になったのですが,その元部下がオランダに留学していた折,留学先のデルフト工科大学に同じような装置があることを教えてもらいました。元々は,ドイツのミュンヘン工科大学にいらっしゃったシュプリンゲン・シュミット博士が考案した装置をデルフトで作製したとのことでした。早速,オランダからいろいろ情報をもらうように元部下に頼んで,仕様書などの作成をしてもらいました。写真はデルフト工科大学での装置です。

 

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TSTM(デルフト工科大学)

結局装置が購入できたのは,私がダムの現場から研究所に戻ってからでしたが,装置はちゃんと出来上がっていました。私が考案したように解析と連動していませんでしたが,実構造物の部材中央付近でのコンクリート打込みからひび割れが生じるまでの若材齢時のコンクリートの挙動をシミュレートできる装置でした。装置は,あらかじめ対象とする部材の温度履歴(事前に温度解析を行う)を設定温度として与え,その温度履歴に沿って拘束を受けていない供試体(無拘束供試体と呼んでいます)のひずみを逐次測定していき,そのひずみに対して何割ひずみを拘束するか定めておいて,もう一つの供試体(拘束供試体と呼んでいます)に拘束後のひずみを与えるというものです。完全拘束した状態であれば,拘束供試体のひずみは生じないこととなり,ひずみが生じないようにアクチュエータで力をかけていきます。拘束度0.5であれば,無拘束ひずみの半分のひずみが生じるように拘束供試体をコントロールします。この装置,温度ひび割れだけでなく,自己収縮応力やクリープの測定も可能で,ある材齢で型枠を外せば,乾燥収縮の測定も可能です。これで,10年は研究のネタができたと思いました。また,この装置はそれこそセメントメーカ,混和剤メーカ,建設会社の研究所,大学など引く手あまたになるだろうと思いました。特許はとれませんが,操作のノウハウを売れば儲かるのではとまたも捕らぬ狸の皮算用をしたのですが,この装置自体非常に高価で,他のところは結局導入を見送ってしまいました(装置の仕様は,東大,電力中央研究所広島大学などに提供しました)。

その後,大学に移ってからもこの装置を使って是非研究を続けたいと思い,文科省助成金に応募したのですが,外れてしまいました。それでも諦めずに確か3度目か4度目でようやく獲得することができました。また,オランダのデルフト工科大学に行く機会があり,装置を開発したVon Brugel教授にお会いして,色々お話を聞かせていただきました。Brugel教授はもうその頃鉄筋との付着について,TSTMを使って検討されていました。装置には専任の技官の人がいて,メンテナンスも含めて管理されていました。こちらは,学生が管理していたので,しょっちゅう故障していました。ここ数年ようやく技術嘱託の方が専任で見てくださるようになって順調に稼働するようになりました(大学で導入した年は,学生が一度もうまく動かすことができず,卒論どうしようか頭を抱えてしまうこともありました。学生には建設会社で行っていたデータを再整理させて何とか卒業させました)。その方もこの3月で退職されたので,これからまた再スタートということになりました。ちなみに,この装置と同様なものは,東大,東大生研,金沢大学,広島大学などにあります。建設会社で使用していたものは,その後温度制御関連の部分を取り外して,名古屋大学に譲渡されたと聞いています。

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我が研究室のTSTM