法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

思わぬ研究成果

2001年度の最初の卒業研究で,技術研究所から進めていた非破壊試験に関する検討を続けて行うこととしました。電磁波レーダでコンクリート中の鉄筋探査を行う場合,重要となってくるのがコンクリートの比誘電率で,この比誘電率は物質によって異なってきます。したがって,コンクリート中の水の量(含水率)が直接電磁波に影響することとなります。もちろん他にも要因はありますが,コンクリートが乾燥しているのか,濡れているのかによって鉄筋位置が異なってくることになります。コンクリート中の含水率をどのように調べるのかを技術研究所で行っていました。その時,水自体を判別するのはなかなか難しいので,トレーサとして塩化ナトリウムを加えたらよいということを聞きました。そこで,どれくらいの効果があるのか塩化ナトリウムの量をいくつか変えて供試体を作製して,学生に測定してもらいました。コンクリート打込みから30日間封緘養生養生して,測定を開始しました。

測定から1か月か2か月経ったころ学生が研究室に来て“質量変化(乾燥に伴ってコンクリート中の含水率が変化するので,それによって既知のかぶりに対して同じ比誘電率を使用した場合どれくらい変化するのかを見る実験)によって,比誘電率が変化しているのですが,塩化物量の違いによる差はありませんでした”と報告してきました。その後半信半疑で“塩化物量が違うと出力波形が変わってきてしまいます。何か測定方法が間違っているのですか?”と聞かれました。波形が違う?というのはどういうことかわからなかったので,“測定した各ケースの同一材齢での出力結果を重ね合わせて持ってきなさい”と言って学生にデータを整理させて持ってこさせた。それを見てみると,塩化物量が多いほど電磁波の波形自体が小さくなっていました。この時頭の中に電球が灯るのを感じました(漫画でよく出てくるまさにあの状態です)。すごく興奮して学生に“各ケースで一番振幅が大きいところを読み取って横軸に塩化物量としてグラフを作りなさい”と言ったと思います。

学生が持ってくるののももどかしかったので,自分で図を作成すると塩化物量の増加に伴って電磁波の最大波形が小さくなっているではないですか,何か凄い発見をしたようにその時は思いました(コンクリート中に含まれる水で塩化ナトリウムがイオン化して,導電性が良くなったことによるものなのですが,その時はそんなことも分かりませんでした)。ただし,その減少自体はそれほど大きくなかったので,水溶液にしたらもっとはっきりするのではないかと思い,市販のアクリルケースに濃度の違う食塩水を入れて,電磁波で測らせました。

案の定,塩化物量の増加に伴ってコンクリートの場合よりも明確に変化しているのを確認しました。これは,ひび割れ深さの測定方法の時のように特許になると思って,その後はデータ収集のため,ひたすら学生に測定させました。測定を始めたのが夏ごろで年末まで測定させたのですが,同一材齢では塩化物量による差異はあるのですが,材齢の増加に伴って波形自体の値が大きくなっていったのです。最初は,水和反応による影響か,コンクリート内部の水分移動なのかと思ったのですが,どうもそれだけでは説明がつきませんでした。思い悩んでいるとき,そういえば測定を始めた頃は結構暑かった(赴任した当時の実験室は温度管理されていなかったので,夏は暑く,冬は寒いという環境でした)のですが,今は冬で結構寒い状態なので,もしかしたら温度が影響しているかもしれないと思いいたりました。また,頭の中に電球が灯ったのです。外気温の影響を加えて重回帰分析したら,波形が材齢を問わずほぼ一定となりました。電磁波自体が温度影響受けるとは考えにくかったので,電磁波レーダに熱電対つけて測定しました。最初,温度が低いと波形自体が乱れるのですが,時間が経って温度が一定になってくると波形が落ち着いてくるのを確認しました。

 このようにして,電磁波レーダでコンクリート内部の塩分量が推定できるのでないかということを見つけたのです。その後20年近くこの電磁波については研究を続けて,社会人ドクターの方に理論も含めてとりまとめをしてもらい,その方はこの電磁波による塩分量推定で博士号を取得されました。