歴史街道について
土木学会誌の“この人に聞く”では,土木に直接かかわりのない方にインタビューしているのですが,私自身歴史に興味があるのでその分野の方たちに取材しているケースがどうも多いようでした。今日紹介するのは,2007年5月号の“この人に聞く”の真木嘉裕氏の歴史街道についてのお話です。この号では,土木学会誌90周年の特集として,編集デザインの変遷という記事も書いています。結構,この頃頑張っていたようです。これについては,次回紹介したいと思います。
以下に,インタビュー記事の抜粋を載せますので,興味のある方は土木学会誌のバックナンバーを読んでみてください。
“1980年代後半に,日本の歴史文化を海外に発信していくことを目的として,「歴史街道構想」がスタートした。特に,関西は伊勢の神話の時代,飛鳥の古代の時代,奈良の時代,京都千年の時代,大阪の町人文化,神戸の文明開化と神話の時代から近世まで脈々とした歴史がある。さらに,国宝の60%,重要文化財の50%,国指定の名所史跡の30%が関西にあることを考えると,関西地区はまさに歴史文化の宝庫であるといえる。これをベースとして歴史街道という名称で活動を始めることとなった。
1991年には,関西経済連合会が主体になって歴史街道推進協議会が設立されている。歴史街道計画の目標は,「日本文化の発信基地づくり」,「新しい余暇ゾーンづくり」及び「歴史文化を活かした地域づくり」の三つである。
伊勢から飛鳥に至る「古代史ゾーン」,そこから奈良に至る「奈良時代ゾーン」,京都に至る「京都千年の都ゾーン」,「大阪,神戸のゾーン」というように,厳格な道ではなく,ゾーン(地域)的な捉え方をしている。地域の府県市町村を網羅した推進母体の設立,国,地方省庁,地方自治体,各会社関係者など,約二百の団体が加盟している。
歴史街道では,観光とは何かということをテーマとした。観光という言葉が初めて表われたのは,中国の古典『易経』で,「王者たるものは国の光を海外に広め,他国に光があればそれを観に行きなさい。他国に光を観に来たものを賓客として大事に扱いなさい」ということが記されている。光とは,その国の誇りとすべきものであり,他国から尊敬され,侵略されないものである。
歴史街道では,「歴史・ロマン」,「景観」,「アクセス」,「ショッピング」,「グルメ」,「ホスピタリティ」の六つを誇りをテーマとした。さらに,どのテーマにスポットを当てるかという「Light Up」,価値を与え意味づけをする「Meaning」及びいい名前をつける「Naming」をそれぞれのテーマで考えた。具体的には①情報発信基地づくり,②余暇ゾーンづくり,③歴史文化を活かした地域づくりを進めていくということを各都市が定めて,都市の品格を高めていくこととなった。
最初に,古代の「飛鳥」及び千年の都・京都にちなんで平安文化のある「宇治」の2つに焦点を絞った。宇治市では,市民へのアイデア募集を行い,279点のアイデアの中から検討して,源氏物語の最後の十帖が宇治を舞台にしているということで「源氏物語のまち」ということに決まった。具体的には,宇治川の護岸を国が整備し,京都府で総ヒノキの宇治橋やバイパスの整備を行った。宇治市は,宇治駅から平等院に至る参道を石畳にし,電柱の地中化や散策路などを整備し,地元の商店街が参道のアーケードを製作した。その結果,観光客が増え,経済効果も上がった。地元の人たちも,宇治大田楽まつりを復活させ,毎年開催するようになった。
まちおこし成功には共通点がある。①「地元住民より盛り上がってきた自助努力」である。どこのまちにもリーダーがいて,それをうまく捉まえるかどうかによって明暗が分かれる。②「その地域の誇りとすべき歴史文化資源を活用する」である。これは,宇治市の場合平等院や源氏物語を活用した。③「新しいattractive(観光客誘致要素)を創造し,増幅する」である。要素がなければ,新しく創造してもいい。④「行政によるバックアップ。官主導でないのが特徴」である。⑤「継続は力なり,官民協力して取り組む」ことである。宇治でも軌道に乗るまで14年かかった。他に近江八幡のまちづくりとして八幡堀の保存修復も14年くらいかかっている。
土木の担当者は,技術オンリーである。これでは,一般の人に受け入れられない。土木は,これまで安かろう,速かろうで,標準化を押し付けてきた。したがって,シビックデザインを心がけていくべきである。使い勝手が良く,強いもので,地域にマッチする美しいものでなければならない。これからは,住民に夢を与える土木を志していく必要がある。“
今では,結構当たり前に言われていることですが,十数年前にはそれが当たり前ではなかったということです。時代の流れはどんどん早くなっています。土木も時流に遅れず色々な取り組みをもっと積極的に進めていく必要があると思います。