法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

黒部の太陽(後編)

 昨日に引き続き笹島氏のインタビューの概要を書きます。今の若い世代には是非読んでもらいたい笹島氏からのメッセージです。その迫力は,歳には関係ないと思いました。

 最初に,男社会と言われた土木業界に女性が増えてきていることについてお聞きしたところ,笹島建設でも女性の土木技術者になりたいといって入社した女子学生がいて,現場の仕事をさせたら,男子社員では気が回らないところまで気配りできて,男子社員よりも一生懸命やっているとのことで,今現場の所長をやっているそうです。笹島建設でトンネル現場の所長になったのは初めてだそうです。

 自分が現場で働いていた頃は,トロッコを押したり,モッコを担いだりして土砂を運び出すなどの文字通り肉体労働だったそうです。今では,ショベルカーなどの重機のオペレータや大型ダンプの運転など女性が多くなっているそうです(2008年当時)。女性の方が機械の操作は男性に比べて優しく扱うので,維持管理費(主に修理費)のコストも少なくて済んでいるそうです。女性のオペレータは,母親が我が子を扱うように愛情を持って機械に接するそうです。以前埋め立ての現場に視察に行ったとき,オペレータの30%が男性で,70%が女性だったそうです。笹島氏は,女性が土木の現場に進出して増えていくことはとてもいいことだと仰っていました。

 若者の土木離れについてお聞きしたところ,まずはどんな職業であっても仕事が好きになることと,私の会社であればトンネルが好きになることが大事であると言われました。人から言われてやっているうちは上達もしませんし,面白くもない。まずは,自分で好きになることで,好きになれば自然と仕事も身についてきます。どんなに優秀であっても現場施工が好きでなければ仕事は身につきませんし面白くもないのです。仕事が好きになれば,ちょっとした時間でも例えば現場で使っている機械をのぞきに行ったりするようになります。

 今の若い人は,機械にしても道具にしても好きという思い入れがなくなってきているように感じるそうです。特に好きでもないのに給料をもらうために仕事をしているそんなサラリーマンが増えています。我々の時代は,給料もさることながら好きでなければやっていけなかった。元請だろうが下請だろうが,社員でも作業員でも自分の意見があれば喧嘩してぶつかり合っていました。今はそんな意見のぶつかり合いをほとんどしなくなっています。それは,仕事が本当に好きでやっていないからだと思います。仕事に興味がなければ自分の意見も持ちようがないので,ぶつかり合うこともないのです。

 今は,元請や役所の方で100%計画ができた状態で,我々が仕事をしているのですが,当然,現場では計画通りに行かなくて,違う判断が求められることがあります。以前は,現場の意見でも自分たちの意見が正しければ,発注者も取り入れてくれて,設計変更でも迅速果断に対処してくれていました。今はやれ書類や実績だといって,設計変更するのにも時間がかかってしまいます。これは,施工者が役所化してしまっているからだと思います。

 土木の業界は,給料をもらうために入ろうと思うのだったらやめたほうがいいと笹島氏は仰っていました。仕事が好きであるということが大切だとも言われました。好きになれば勉強し,考え,研究もします。機械の使い方ひとつにしても仕事の段取りひとつにしても好きなら自分で考えます。最近は,上から言われたことだけをやるという傾向が作業員まで及んでいます。好きでやらなければいいアイデアなんか出てこないし,決していいものはできません。

 笹島さんは,インタビュー当時91歳でしたが,仕事が好きで毎日会社に出ていられるそうです。こんな人は,日本中探してもほとんどいないと思います。仕事が好きなので,給料をもらわなくても会社にでてくる。会社にでると最初に現場の進行状態がどうなっているのかをチェックするそうで,それが楽しみで来ているのだそうです。

 土木は一人ではできません。能力のある人たちを集め,多くの力を一つにすることで何十倍も仕事ができる。だから面白いのです。若い人たちにも仕事を好きになってもらいたいと言われていました。