法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

土木を子供たちのヒーローにしていくためには?

 昨日の続きを書いていきたいと思います。

 消費は個人的なもので,お金を払った瞬間にその対価としてサービスや物が手に入る一方で,労働というのは集団で行わなければならないもので,かつ働いてもすぐには報酬が手元に来るわけではなく,労働自体も過酷なものもあります。消費から入るとそういった行為が耐えられず,労働から逃避してしまうようになってしまうそうです。ですから,現在(2007年当時ですが,今も変わらないかもしれません)人気がある業種としては,すぐに自分の行為の評価が返ってくるものになってきます。一番よい例としてはデイトレーダーのようなもので,特に汗水たらさなくても,クリック一つで何百億というお金を右から左に動かすことができます。これらの業種は自分一人の力ですぐにお金が稼げる(当然元金が必要となってきますが)のです。例えば,ライブドアホリエモンが人気になったのも,ものすごく小さな労力であれだけのお金を稼いだからなのです。

 そう考えると,土木の仕事は,今の若者からすると受け入れられないものの一つと言えます。集団でやって,自分の成果はどこだかはっきり見えないし,努力した割には対価が少ない。土木は,楽して稼ぐことの真反対のところに位置していることになります。今の子供たちに対して,土木業界の魅力を語るためにはそれこそ社会全体の意識自体を変えていかなければならないと思います。それは,非常に大変な仕事と言わざる負えません。

 私自身は,大学で学生たちに夢を語れる業界にしたいと話すのですが,土木自体夢を語れるものが今はほとんどないことについて,どのようにしたら夢を語れる業種になるのかお聞きしたところ,F氏は,土木自体100年前は夢を語っていたと言われました。鉄道や水道などインフラを造り,これからの日本を変えていくのだという夢があり,それを実現していく人たちがいて,それを見ていた人たちは憧れを持ったと思います。今の学生たちの目には,日本の国土自体というか社会の仕組み自体ほぼ完成しているように映っていると思います。しかしながら,少子高齢化が進み,人口減少社会へ突入しているのですから,それらを踏まえた新しい国土形成を効率的にかつ迅速に行っていく必要があります。

 たとえば,夕張のような(市が破産したことは2007年当時相当ショッキングな話題でした)老人ばかりの町の場合,当然ですが生き残っていくことは至難の業といえます。そのような地域(消滅都市)の人たちを他の都市などに移住させて,極端な話,夕張自体を原野に戻してしまうくらいの措置を行っていかないと国自体というか地方自体が成り立たなくなってしまうことになります。そのように思い切った政策を打ち出していって,自治体単位で体制を見直し,数十年後には国の人口を人口5000万人くらいでも機能するような国造りをしていく必要があります。江戸から明治の時と同じように全く新しい国づくりをしていくくらいの気構えが必要となってくると思います。

 国や地方自治体は,新しい日本全体のビジョンを示し,明治期以来の国の再構築の局面だということが実感できるようになったら,土木はやりがいのある仕事のNo.1になるかもしれないといわれました。そこまでしないと土木の人気度は上がってこないのだと思うと,土木屋が総理にでもならない限り(ちょっと違うかもしれませんが,田中角栄のような人物),土木の人気度はこのままであると思いました。

 では,未来に向けて今の子供たちに土木に興味を持たせるためにはどのようなことをしたらよいかお聞きしたところ,先程話をしたこれからの少子化に対して負と捉えるのではなく,プラスに捉えることができれば,そんな大仰な政治改革をしていかなくても土木の人気度は上がるかもしれないといわれました。具体的には,子供に対して土木を憧れのヒーローにしていくことだと思いますと言われました。工業製品なら,デザイナーや開発者など,ヒーローを簡単につくれます。マスコミもそういう売り出し方をすると注目して取り上げます。土木でも,業界の発展のためにヒーローをつくることが必要といえます。

 その業界で活躍するための資質や能力を知るためにも,ヒーローの存在は非常に大事だと思います。どういう生い立ちでどういう勉強をしてきて,どういう挫折があってと,一人ヒーローがいると,皆が聞きたがります。そういったことが明らかになっていくと,自分もああいう人を目指して頑張ってみたいと,その足跡を追っていくことができます。

 実は,そういうヒーローがいないのが今の土木業界の問題だと思うのです。昔はいろいろなところに伝説のような人がいました。そういう意味では,業界全体の看板になるような人が一人でも出てくればと思います。