法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

この橋の向こう(国際会議編,その2)

 国際会議の2日目の晩に,バンケットがあり,柳沢教授,秀樹さんとともに出席し,おいしい料理を頂きながら,隣のスペインからきたという若い研究者とたどたどしいながらも会話をして,自分でも少しは話せるのだと変に感心している真理子の姿を柳沢教授と秀樹さんが少し立ち直ったかなと話をしながら食事とお酒を飲んでいるというシーンを撮りたいと思っています。和やかな雰囲気の中,司会の方が今回の国際会議でのPaper Awardの紹介とこの会議の運営などで尽力したスタッフたちの名前を読み上げます。Paper Awardを受賞した研究者に賞状と記念品を渡す光景を真理子は遠くで眺めながら,私も何時か自分の研究で賞をもらえるようになりたいと内なる闘志が燃え上がります。

 バンケットも三々五々流れ解散のような形でクローズし(柳沢教授は早々にホテルに戻ってしまう),秀樹さんと一緒に夜の街を歩きながらホテルに戻っていきます(遠まわしで二人がアヴィニョンの街を歩いている姿を撮りたいものです)。

 翌日は,午前中にクロージング・セッションがあって,3日間の会議も終了します。柳沢先生が,“折角フランス南部まで来たのだから,真理子君に見せたい場所があるんだ。ちょうど車もあることだし,行ってみないか”と言われ,真理子はカンヌかニースにでも連れて行ってもらえるのかと思い,二つ返事で行きますと答える。早めの昼食を済ませた3人は,秀樹さんの運転でアヴィニョンから高速道路を使って南東に向かいました。方向的には,カンヌ,ニース,モナコ方面ですが,2時間ほど走ってカンヌの手前で高速を降りてしまいます。少し走って山沿いの道で秀樹さんは車を止めます。柳沢教授が“ここから先は車で行けないので,歩いていくよ。20分ほど着くから”と言われました。カンヌやニースの海沿いの街を見せてもらえると思ったのに,荒れ地のような道もないようなところを歩き始めます。しばらく歩いていくと,そこかしこに大きな岩が点在していている場所に出ます。近づいてみると巨石だと思ったものはコンクリートの大きな塊でした。真理子の訝しげな顔をよそに柳沢教授はどんどん前に進んでいきます。巨岩が点在した砂地の道なき道を20分ほど歩き,開けた場所にでます。その瞬間真理子はその場に立ち竦んでしまいます。前方を写さず真理子の呆然とした顔をアップで出します。呆然とした真理子の顔が突然歪み出し,嗚咽する表情を写します。そのまま倒れ込むように蹲ってしまう真理子を写しながら,ドローンで上空に上がりながら,前方にパーンしていきます。真理子の目の前には,両岸にダムの形状を残しながら,真ん中が無くなっているダムの残骸が広がります(ちっょと古いですが,ドローンで上がりながらダムの残骸を映し出すこのシーンでは,やはり平井堅さんの“瞳を閉じて”のサビの部分を流したいと思います。このシーンを考えた時からずっと頭の中を“You Love Forever 瞳を閉じて 君を描くよ それだけでいい・・・”がヘビロテしていました。今もこれを書きながら頭の中ヘビロテしています。“世界の中心で愛を叫ぶ(2004年5月公開,監督:行定勲,出演:大沢たかお柴咲コウ長澤まさみ森山未來他”のエアーズロックの空撮シーンの刷り込みがあるからかもしれません)。真理子がこの光景を見た瞬間,小さいころ震災で街が廃墟になった状況がオーバーラップしてしまったのです。泣き崩れる真理子を柳沢教授が抱き抱えながら“大丈夫か,真理子君”というと,暫く呆然としていた真理子ですが,柳沢教授に“大丈夫です。小さい頃のことを思い出してしまっただけです。先生,ここに連れてきていただいて本当にありがとうごございました。私,一生懸命研究して,どんなことがあっても絶対に壊れないダムを造りたいと思います”といいます。柳沢教授は,“このダムはマルパッセダムと言って,今から60年以上前に建設されたダムなのだよ。完成から5年経った冬に大雨が降って,ダムは満水状態になった。その時,左岸側の地盤が下流側に動いて,ダム本体が決壊してしまったんだ。流れ出した水は下流の2つの村を呑み込んで,400人以上が亡くなるという大惨事となったんだ。その後,再建の話もあったそうだが,フランス政府は二度とこのような災害を起こさないための教訓として,決壊当時のままの姿で残すことにしたんだ。君が土木技術者を目指す以上,絶対というものはないんだ。我々,土木に関わる物は得てして自然を御することができると過信してしまうことがある。自然の力は我々の浅はかな知識では計り知れないものがあるんだ。これだけ技術が進んだ現在でもそうだ。我々は,自然を抑え込むのではなく,共生していかねばならないんだ。君もそれを知っておいてもらいたいと思ってここに連れてきたんだよ”と優しく真理子に語りかけます。

 柳沢教授のその言葉に感銘した真理子は,先生の言葉を忘れずこれからも精進していきますと告げる。翌日,柳沢教授は君にもう一つ見せたいものがあると言って,今度は車を西の方向に向かわせます。

 次回は,真理子の感動話を少し書きたいと思います。マルパッセダムのシーンは,真理子の大学院進学の話を書こうと思った時,是非入れたい感動シーンの一つでした。私もこのダムをみた時は,本当にダムのような巨大構造物でも破壊されることがあるのだということを知って,驚きというよりも何か胸に刺さるものがありました。