法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

この橋の向こう(社会人編,配属)

 新人研修最終日に,各自の配属先の発表がありました。真理子は当然現場に行けるものと思っていたのに,本社の設計部の配属が告げられ,思わず悔し涙を流します(顔は,正面を睨んでいるのに,涙が思わず出てくるという画を撮りたいと思います)。実は,私が入社した時はこの方式で,最後の晩は皆で一喜一憂していました。ただし,指導員の先輩からそれとなくリークがあるので,その確認というのが本当のところかもしれません。一緒の班だったK君は,広島支店配属(神戸大学出身で,実家も中国地方)だったり,私が技術研究所配属だったりで,東京に来たかったK君が地方で,現場に出たかった私が研究所配属ということになり,人事というのは本当にわからないなとその時思いました。ちなみに,私の妻は一般職で入社したのですが,当然赤坂の本社に行けるものと思っていたのに,研究所配属と言われ,同じ班の隣の女の子(この子も本社勤務と思っていたのに,研究所配属となった)と抱き合って号泣したらしいです(隣の女の子は,その後本社の副社長室の秘書になりました)。真実は小説より奇なりなどと言いますが,結構映画の1シーンになるようなことが実際に起こっている典型のような気がします。

 さて,真理子は意気消沈として寮に戻ります。しかしながら,いつも前向きな真理子はこれも神が与えたもうた試練であり,一生懸命務めれば,きっと自分の思いは通じると思って,気持ちを切り替えます。新人研修は,水曜日に終了し,木曜日及び金曜日は研修中の土日の振替として休みになりました(地方に移動する人のための期間でもあります)。真理子はこの休みを利用して,柳沢教授のところに配属先が決まった旨の報告にいきます。ついでに,研究室に寄って,どんな後輩たちが研究室配属になったのか会いに行きました。吉川さんにも報告したかったのもありますという設定にしたいと思います。手土産をもって(社会人になったというしるし,ただし,まだ初任給は出ていない),柳沢教授の部屋のドアをノックします。“瀬川です”と声をかけると,ドアの向こうから,”おー,真理子君か,入りなさい“という柳沢教授の声がします。緊張しながらドアを開けて(柳沢教授の部屋に入るときはいつも緊張するという様子を出したいと思います),机に向かって書き物をしていた柳沢教授が顔を上げます。

 “どうしたんだい。まだ研修期間中ではないのかね。”といわれ,“研修は昨日で終了しました。今日は研修中の振替休日なので,先生に配属先の報告に参りました”と答えます。“私は,現場希望だったのですが,本社の設計部配属となりました”と少し声を落として話をしました(真理子自身,不本意であることを滲ませるような言い方をします)。

 “そうか,設計部か,それはよかったね。いきなり現場に行っても工事のことは何もわからないだろうし,ただ,上司から言われたことをやるだけになってしまう。それに,最初の数年は作業員の追廻や測量だけになるだろうから,君が思うような現場の仕事はすぐにはできないと思うよ。それよりも,設計部でしっかり勉強して,構造物が実際にどのように造られていくか学んだほうがよいと思うよ。ただ,言われるがまま造るのと,中身が分かって造るのでは全く違ってくるんだよ。自分がスキルアップして,会社に貢献するためのステップだと思えばよいと思うよ。”と言われます。

 確かに,何もわからず言われるがまま作業するのと,構造や施工がちゃんと分かって作業するのとでは雲泥の差があることを真理子自身その時気付かされました。考えてみたら,当たり前のことなのですが,闇雲に現場出たいという思いだけでは駄目なんだと,真理子はその時分かったのです。やはり,柳沢教授に報告に来てよかったと思う真理子でした。

 “先生,今年入ってきた学部生はどうですか?”と真理子が質問すると“元気のよい子が2人も来てくれたよ。真理子君がいなくなって,研究室自体ちょっと覇気が無くなったように見えたんだが,新しい学部生は,昔の真理子君のように何事にも前向きに取り組んでくれそうな子たちだよ”と言われました。真理子もそれを聞いて何か安心して,柳沢教授に“研究室に行って,大学院生や学部生に会ってきます”と言って,教授の部屋を後にします。

 続きは,次回書きたいと思います。