法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

最近のニュース

 最近,新聞やニュースで気になったものが2件あります。一つは,日本橋の上を通っている首都高の地下化工事がいよいよ着手されたというものです。11月9日に首都高速道路会社がプレスリリースして,日本橋周辺の首都高の地下化工事に着手したと発表しています。地下トンネルは,2035年頃に開通予定で,その後日本橋の上を走る首都高を撤去する工事に入り,2040年頃撤去完了する見込みとのことでした。事業費は3200億円とのことです。先日ブログにも書きましたが,神田川の周遊クルーズの船の発着場が日本橋のすぐ横で,日本橋をじっくり下から見たのは初めてだったので,何か凄くタイムリーな時期に日本橋を見れて良かったと思いました。また,日本橋上空の首都高がなくなる姿を,生きている間にギリギリ見られるかなと思いました。

 工事は,神田橋ジャンクションから江戸橋ジャンクションまでの1.8kmのうち,1.1kmを地下化する計画だそうです。写真家の大山さんは,日本橋の上の首都高を撤去することは反対だと言っておられました(先日の神田川クルーズでも一緒でした)。歴史の積み重ね(川の整備,水運,日本橋,首都高,地下のライフライン)を感じられる風景は残すべきだといわれました。日本橋界隈の人たちは,頭の上を抑えられているみたいで,撤去には賛成であると言われています。日本橋は,いろいろな人がいろいろな思いを持っている場所だともいえます。

 二つ目は,中央高速道路の跨道橋の耐震補強工事での鉄筋不足の件です。ニュースや新聞で報道されていて,知っている方も多いと思います。今回問題となったのは,日野から八王子近くにある跨道橋の一つの緑橋の耐震補強工事において,鉄筋不足が工事業者から告発があり,NEXCOが調査した結果,橋台の一部で補強のために増打ちした部材において設計通りの鉄筋が入っていないことが確認されました。NEXCO中日本の報告では,通常の使用に関しては特に問題はないが,今後予想される東京直下や東海・東南海沖地震などの大規模地震に際して,耐震補強の効果が十分発揮されないことが懸念されるため,再施工するとともに,元請のO産業に賠償請求するというものでした。その後,この業者が施工を請け負ったその他の耐震補強工事(グランドアンカーの定着部)においても鉄筋不足があったことが確認されています。

 NEXCO中日本の報告を見ると,緑橋の橋台に配筋されている鉄筋のうち,鉄筋が所定の本数入っていなかったのは,主筋(力を直接受け持つ鉄筋)ではなく配力筋(力を均等に受け持たせるための鉄筋)であり,地震に対して極端に補強効果が低下することはありませんが,補強部材全体で見た場合,設計に対する要求性能を十分に果たせない可能性が考えられます。ただし,設計に対しては安全率を考慮しているので,1本だけの不足であれば,極端な性能低下にはならないのでないかと思います。さらに,鉄筋が所定の位置からずれて配筋されていることも報告されています。鉄筋のずれ方向にもよりますが,これについても極端な性能低下にはならないと思われます。この橋台,ひび割れが5本入っていることも報告されています。ひび割れについては,補強部材の大きさが直接わかりませんが,幅員から想定して,比較的マスコンクリート(部材寸法の大きいコンクリート部材,代表的なものとしてはダムなどがあります)でかつ既設の橋台と一体になるように施工されているので,コンクリートが硬化する際のセメントの水和熱(コンクリートが固まるとき,化学反応を起こし,その際熱が発生します)による体積変化(コンクリート自体が発熱で膨張し,その後放熱されて収縮する現象)による温度応力でひび割れが生じたものと思われます。このひび割れが直接構造性能(部材が崩壊するなど)に影響を与えることはありませんが,耐久性の点から問題になると思いますので,補修を行う必要があります。

 グランドアンカーについては,こちらも配力筋が不足しているので,アンカーの抜け出しなどが直接生じることはありませんが,地震時に定着部(コンクリートの塊の部分)にせん断力(ずれだと思ってください)が働いた場合,設計に対する要求性能を満足できなくなる可能性があります。ただし,設計に対してはこちらも安全率を考慮しているので,極端な性能低下が起こるようなことはないと思います。

 いずれにしても,こんなことがあってはならないのは事実であり,事業者の業者選定や管理体制を問われても仕方ないと思います。しかし,記事を読んでいて疑問に思うのは,この工事を請け負ったO産業は,九州に本社がある会社なのですが,ホームページでみたところ,運送が主のようで,建設事業部の業務内容や実績を確認しようとしたのですが,現在リニューアル中とでて,一切それらがわからず,本当に適切な業者選定がなされたのかという点です。

 記事の情報だけなので,実際のところは分かりませんが,メンテナンス事業の在り方(調査・点検はされるけれど,実際に補修・補強工事を請け負ってくれる業者がいないという問題)について,考えさせられる記事ではないでしょうか。