法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

私のライフワーク

今日は,私の研究におけるライフワークの話を少し書きたいと思います。思い返してみると,大学4年の時から今まで実に40年近く同じようなテーマで研究を続けてきました。話が長くなるので,今日は簡単にサマリーだけを書きたいと思います。これから不定期で少しずつ書いていけたらと思っています。

私のライフワークは,熱応力関連の研究(主にセメントの水和熱に起因する温度応力によって生じるひび割れについての研究)であり,当研究室でも力を入れている研究のテーマのひとつです。実は,私の大学での卒論及び修論テーマが以前にも書いたと思いますが,パイプクーリングの3次元解析プログラムの開発で,博士号もパイプクーリングに関する研究テーマでした。ですので,大学時代から建設会社に入って博士を取る16年間ずっと熱応力の研究を行ってきたこともあって,私のライフワークとなった所以でもあります。

今思えばラッキーだったのかもしれませんが,建設会社に入社して技術研究所に配属され(最初は,現場希望であった私が何故デスクワークしなければならないのかとくさっていました),2年後に土木学会コンクリート標準示方書が大改訂され,マスコンクリートの解析手法としてCL(Compensation Line method),CP(Compensation Plane method)法が提唱され(梁の理論を基に温度ひずみに対する曲げと軸力を組み合わせた簡易的な応力手法で,CP法は壁状構造物のような同一断面が長く続くような構造物を対象とした疑3次元応力手法です。これについても詳細は別の機会で書きたいと思います),ひび割れ発生の危険度をひび割れ指数と発生確率との関係から求めるようになり,温度ひび割れ発生の定量評価が行えるようになりました。その当時,上司から”大学で熱応力のことやっていたのだから,パソコンで解析できるプログラム作成をしろ”といわれ,ようやく普及し始めたパソコンにBasic言語でコーディング(プログラム作成)をしました。それがきっかけとなって,技術研究所にいる間非常に数多く(少なくとも100以上の構造物)の温度応力に関する検討業務を行っていました。技術研究所では他にもいろいろ業務をしましたが,波はありましたがずっと熱応力に関わる研究や開発を行っていました。つまり,大学時代から,社会人時代,そして大学教員となった現在に至るまで,温度応力に関わってきたことになります。まあ,私としては終生このテーマを追い続けていきたい(ライフワーク)と思っています。

 セメントの水和熱に起因する温度ひび割れは,コンクリート打込み後比較的若材齢時に発生することが多いです。そのため,温度ひび割れを予測するためには,セメントの水和熱や水和に伴う水分移動,刻一刻と変化していくコンクリートの力学特性や変形特性を把握していく必要があります。ひび割れ発生やひび割れ進展については,コンクリートの微細構造まで把握していく必要があります。コンクリートのひび割れ問題は,コンクリートという材料を扱う上で永遠のテーマであると聞いたことがあります。確かに,色々な要因が複雑に絡み合って生じるコンクリートのひび割れは,そのメカニズムを追求していく上で解決すべき課題は膨大ですし,研究テーマとして取組み甲斐のあるテーマといえます。

 一方,実務を長く経験してきた身としては,毎日のように発生している温度ひび割れをできるだけ少なくするための実利的な研究も重要であると思っています。確かに近年では温度応力に関する解析技術が飛躍的に向上し,パソコンで手軽に大容量解析が可能となってきています。一方で,そこに入力すべき熱特性,力学特性,変形特性のデータが高度な解析技術とバランスが取れていない現状があります。そこで,2005年から現場で比較的簡単に温度応力解析に必要な設計用値を取得するための方法について研究を行っています。この話は,また別の機会で書きたいと思います。この研究を行うきっかけとなったのは,土木学会のコンクリート標準示方書や日本コンクリート工学会のひび割れ制御指針で示されている設計用値があくまでも既往の研究や多くの実績を基にした平均的な値であって,個々の現場に必ずしも適合しているとは限らないということです。また,最近の温度応力解析プログラムは,コンクリートの専門的な知識がなくても解析を行うことができます。

以前,ある建設現場から提出された報告書を見てもらいたいと依頼されて見たことがあります。これが,またとんでもない解析結果の報告でした。この研究が実用化され,全国の現場や生コン工場で使用されるようになれば,こんな間違いも少なくなるでしょうし,より高精度の温度応力解析を実施することができるようになるのではないかと思っています。