法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

この橋の向こう(新入社員研修編,後半)

 真理子たちの班の犬小屋は昨日書いたように渦巻き状で色はピンクという見た目のインパクトはありますが新進気鋭の芸術家のオブジェのような仕上がりとなりました。真理子自身自分のイメージした犬小屋の対極にあるような作品に,何とも居心地の悪さを感じていました。作品紹介のためのプレゼン資料を開発F君,建築系C君が中心となって作成し,プレゼン自体は営業E君が行いました。他の班は,リーダーがプレゼンをしたのですが,真理子はとてもこの作品の紹介に対して自信を持って行うことができないと思い,E君に任せたのです。作品自体は,そつない感じで仕上がっていましたが,皆が一つになって作ったというような作品から醸し出されるオーラのようなものは感じられませんでした(このあたりをどのように映像にしたらよいかちょっとイメージが湧きませんでした。湯気のようなものをCGで入れるのもちょっと違いますし,キラキラしたものを入れるのもちょっと違うかなと思います)。

 講評会は,審査委員長が土木・建築の副社長で,会社の各部署の部長クラス,各グループの指導員たちが審査員でしたが,最初に研修に参加した新入社員全員による投票が行われました。最初に,各グループの班員が作品の後ろに並び,発表者が作品のコンセプト,アピール点,苦労した点,自分たち自身の評価点を説明していきます。各グループの発表が一通り終わった後,作品と発表者が行った内容のポスターが飾られた各ブースを新入社員,会社の審査員たちが見て回ります。その後,新入社員全員が一番よいと思った作品(記名式で,自分のグループには入れられないルール)に1票投じます。新入社員全員の投票が終わった段階で,新入社員同士が評価した最もよい作品の発表が行われました。その結果,真理子たちのグループは20グループの中で8番目でした。グループの他のメンバーは半分より上の順位に喜んでいましたが,真理子自身は他の新入社員の評価にも順位にも何かスッキリしないというかモヤモヤしたものを感じていました。

 次に,会社側の審査員たちがそれぞれの作品を10段階で評価した結果が発表されました。その結果,真理子たちの作品は最下位の評価を受けました。新入社員同士の評価とあまりにかけ離れた結果にグループの皆は唖然とした表情を浮かべます。真理子だけは,やはり会社の上司たちが求めているものと私たちの作品が全くの的外れのものであったものであるという結果を突き付けられたことに対して真摯に受け止めていました(当然の結果であったような表情を真理子にさせられたらよいのですが)。新入社員同士の評価では,下位の順位だった作品であったものが最優秀賞に選ばれました。くしくも,真理子がグループの皆に説明したようなフォルムと色をした作品でした。

 会社側の審査委員長である副社長から総評が述べられました。”今回の課題は,自分たちの個性を出す芸術作品ではなく,顧客に寄り添った作品作りを評価の対象としました。私たち建設会社は,施主(発注者)が望むものを如何に具現化していくかというのが第一ですが,出来上がった構造物は多くの人たちが利用するものでもあります。その利用者が安心・安全に利用できることを実は考えていかねばなりません。独りよがりの構造物は,最初の見た目は確かにインパクトがあるかもしれませんが,利用者の立場に立ったものでない限り,使われることなく,短い時間で取り壊されてしまいます。私たちは,100年先,200年先を見据えた構造物を造っていかねばなりません。当然,利用者が満足する品質をその間確保していかねばなりません。

 今回,犬小屋という自分たちが関わらないような小さな構造物だったかもしれませんが,飼い主や利用する犬たちが安心・安全に使えるものでなくてはなりません。犬がどう思っているかわからないという人たちは,実際に自分たちの造った犬小屋をペットショップにおいてもらったらよいと思います。すぐに売れていくもの,いつまでも売れずに店の片隅でホコリを被ってしまうものに分かれると思います。たとえ売れたとしても,1月もたたないうちに資源ゴミに出されているかもしれません。その一方で,何代にもわたって使われるものもあると思います。私たちは,見た目でなく中身で勝負していかねばならないのです。皆さんの今日の結果を真摯に受け止めて,これからの仕事に生かしていってください。”

 真理子は,この副社長の言葉をしっかり受け止めて頑張っていく決意をするのでした(この表情もうまく画にしたいと思います)。この副社長とは,この後いろいろ真理子と絡みが出てくることになります(これもお約束のひとつかもしれません)。

 次回は,いよいよ真理子の配属先が決まって,会社の仕事を始めていくところを書きたいと思います。