法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

卒業生のI君

 先週の土曜日に2018年に卒業(大学院修了)のI君が研究室に来てくれました。卒業後に建設会社の技術研究所に勤務していたのですが,10月1日に本社の土木管理本部に転勤になりました。卒業生の中で転勤する時に私に連絡してくれるのは僅かで,そのほとんどはメールによるものです。I君はすごく律儀というかメールで転勤の挨拶は失礼なので,直接お会いして伝えたいと言ってくれました。私の予定は,研究室の学生が見れるようにしているので,I君にはマスターと連絡とって来学したい日を教えてもらいたい旨を伝えました。

 本人は,転勤前に挨拶に来たかったようですが,私との予定が合わず,土曜日になってしまいました。11時にI君が研究室に来て,本社への転勤となったことを報告してくれました。業務としては,洋上風力に関するプロジェクトに関わるとのことでした。入社して3年目での転勤は,私がいた頃ではとても考えられない人事ですが,今のご時世では即戦力の期待が大きいのかもしれません。私の頃は,入社3年目くらいでは上司からの指示に従って仕事をこなすのが精いっぱいで,出張の時も一人で行くことはほとんどなく上司の鞄持ちでした。それが,入社3年目で本社に転勤となれば,得意先との折衝なども自分でしていかねばならないでしょうし,結構荷が重いと思うのですが,上からそれだけ期待されているということだと思います。確かに,彼は在学中も研究熱心で,後輩の面倒見もよかったですし,他の学生の研究の手伝いなども自ら率先して行っていました。私がちょうど在外研究でパリに行っている時も一人で私のアパートまで訪ねてきてくれたこともありました。

 そんな彼だったので,私の方も結構大変な業務をお願いしたりしましたが,嫌な顔一つせず一生懸命取り組んでくれました。そのひとつがDEF(Delayed Ettringite Formation:コンクリート打込み後に高温に晒されるとエトリンガイトが分解され,その後コンクリートに一定量以上の硫酸塩が含まれかつ十分な水分の供給があると,数ヶ月~数年後にエトリンガイトが再生成され,膨張しひび割れなどを生じさせる現象)発生の解析的アプローチでした。解析は,プログラムの整備がまだできていなかったので,温度解析した後に閾値を超えた要素を手作業で拾い出してもらって,超えた期間,その時の温度からポテンシャル値を算定してもらい,そのポテンシャルに応じて要素に再膨張を生じさせて,どのようなひび割れが生じるのかというもので,数万節点からデータをピックアップしての計算は並大抵ではありませんでした。直接自分の研究とは関係なかったのですが,これも勉強ですからといって一生懸命取り組んでくれて,その成果は私のパリの滞在先の研究機関でも高く評価されました。そのご褒美というわけでもなかったのですが,ポルトガルマデイラ島(アフリカ大陸の西の島)で行われた国際会議に私と一緒に参加させました。また,その2週間後に開催された南アフリカの国際会議にも一人で参加させました。

 このような頑張り屋さんなので,会社でも評価されたと私は思っています。これからいろいろ苦労するとは思いますが,I君であれば涼しい顔で乗り越えていくと思っています。彼のような卒業生が研究室にいてくれたことに,私自身とても誇りに思っています。