法政大学コンクリート材料研究室

法政大学コンクリートの活動報告

シビルエンジニアの資質

 土木技術者(シビルエンジニア)の仕事において,現場の場合時には危険が伴う作業もあります。危険だから自分はできるだけ関わらず,安全なところから作業員に指示だけする者がいます。そんな輩は,とてもシビルエンジニアとはいえないと私は思っています。危険な作業だからこそ,事故が起こらないように現場の最前線に立って作業員に指示するのがシビルエンジニアの役目だと思っています。以前,現場で勤務していた時,上司から“現場をその目で見なければ,現場のことは何も分からないぞ”といわれたことがあります。“事務所でデスクワークばかりしていては,今現場で起っていることが決して見えないので,どんなに忙しくても1日に最低2回は現場を見て回れ”と言われました。特に何もなくても現場を見て回れば,どんな作業が行われていて,時には結構危険な作業を行っている場合があります。そんな時は,自ら手を出すわけではないにしても,安全に作業が進められているかどうか見ているだけでも作業員は緊張して作業するので,事故が起こりにくくなります。吉田兼好徒然草の第百九段に“高名の木登り”という話があります。木登りの名人が弟子に高い木に登らせて小枝を落とす作業をさせていた時,高い木の上の方では何も声を掛けず見守るだけだったのですが,飛び降りても大丈夫な低いところまで下りてきた時に,名人が“気を付けて降りなさい”と弟子に声をかけます。木から降りてきた弟子が“木の高いところにいた時,何も声をかけないで,低いところに下りてきた時に何故注意するような声を掛けたのですか”と名人に訊ねす。すると,名人は“高いところは自分でも怖いと思って自ら気を付けるが,低いところだと,もう大丈夫と思って気が緩んで却って怪我をするものだ”と答えたそうです。現場での転落事故は,確かに高所よりも2m前後くらいで起ることが多いそうです。職員がしっかり現場で見守っていれば,作業員も気が緩むことなく緊張感を持って作業します。一見何でもないことのように思いますが,現場で安全に作業が進めるためには非常に重要なことだと私は思っています。

 最近の学生の中には,大変な作業などを回避しようとする傾向があります。また,このコロナ禍で感染が怖いので大学に来ようとしない学生もいます。人それぞれですので,いろいろな考えがあると思いますが,例えば研究室の感染が心配であるならば,自ら出向いて率先して除菌作業をすればよいと私は思います。危険だから,危ないから近づかないのではなく,危険であればそれをどのようにしてなくすかの対策を講じようとすることを考えるべきではないでしょうか。こんな学生が社会に出て,現場での仕事に就くようならば,私だったら一緒に仕事はしなくありません。御託を並べる前に自らが範を示すことがシビルエンジニアだと思っています。安全なところから現場も見ないで指示するような輩には誰も付いてこないと思います。こういう輩は,得てしてさももっともらしい正論を述べることが多いのですが,決して自分から手を下すことはありません。作業員と一緒になって作業することによって,一体感が生まれてくるでしょうし,お互いの信頼感も生まれてきます。これこそが,シビルエンジニアが持つべき資質ではないかと私は思います。